ノン・ルフールマン原則

ノン・ルフールマン原則とは

ノン・ルフールマン原則（仏: Non-refoulement）とは、国際法上の原則の一つで、生命や自由が脅かされる危険性のある人々、特に難民を、そのような危険が及ぶ可能性のある国へ追放したり送還したりすることを禁じるものです。「追放及び送還の禁止」とも呼ばれます。

この原則は、単に個人の所属集団や階級に基づく迫害の恐れがある場合に適用されるアジールとは異なり、より広範に、戦争や災害などによって発生した難民の出身国への送還を対象としています。

概要

ノン・ルフールマン原則は、難民が迫害を受ける危険性のある地域へ送り返されることを禁ずる、国際法の強行規範です。1951年の難民の地位に関する条約と1967年の議定書で成文化されました。この原則は、第二次世界大戦中にナチス政権による迫害から逃れた難民への安全な避難場所の提供を怠ったという反省から生まれました。

今日では、この原則は、難民として認められた人々が条約締結国から追放されないように保護する役割を果たしています。しかし、実際には、難民認定を回避することでこの原則をすり抜けようとする国も少なくないと指摘されています。

1994年のルワンダ虐殺の際、タンザニアが国境を閉鎖し、虐殺から逃れようとする5万人以上の難民の入国を拒否したことは、この原則の侵害であると批判されています。また、1996年には、ルワンダの情勢が安定する前に、約50万人の難民がザイールからルワンダに送還されました。

条約加盟国間で議論の的となっている点の一つは、難民条約第33条の解釈です。難民の可能性のある人々が公海を渡航することを禁止するのは、難民の入国を要請する条項なのか、それとも狭義の追放のみを禁じているのかという点が問題となっています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、入国拒否もノン・ルフールマン原則に含まれると解釈し、厳格に遵守すべきであると結論付けています。

1951年以降、この原則を規定した難民条約は、140カ国によって署名、批准されています。

歴史

ノン・ルフールマン原則は、1951年の難民の地位に関する条約で初めて公式に規定され、1984年の拷問等禁止条約第3条にも盛り込まれました。

この原則の根底には、第二次世界大戦中にナチス・ドイツによる大量虐殺から逃れてきた難民に対し、国際社会が安全な避難場所を提供できなかったという反省があります。戦後、国際社会は、難民に対する国家の主権を多国間でチェックする必要性を認識しました。

戦時中、いくつかの国はホロコーストから逃れてきたユダヤ人を強制的に送還したり、入国を拒否したりしました。また、ソ連から逃れた難民や囚人も、送還後にソ連政府から報復を受ける恐れがあったにもかかわらず、強制的に帰国させられました。

ノン・ルフールマン原則は、国家が自国の国境や国民を管理する権利を侵害するため、国家主権とは本質的に相容れない側面を持っています。1951年の難民の地位に関する条約第33条では、この原則は特定の状況下においては制限されることが認識されていました。

1960年代には、欧州人権委員会（ECHR）がノン・ルフールマン原則を拷問禁止の補助手段と認めました。拷問禁止は強行規範であるため、この原則と結びつくことで、追放と強制送還の禁止が絶対的な原則となり、国家の安全保障を目的とした強制送還の合法性が問われるようになりました。

1980年代には、判例や国際条約の解釈を通じて、欧州人権委員会は、国家主権の維持よりも送還される個人の保護が優先されると判断するようになりました。この解釈では、たとえ難民がテロリストや受け入れ国に対する差し迫った脅威であったとしても、ノン・ルフールマン原則による保護を剥奪することはできません。

1990年代以降、テロ攻撃の発生を受けて、アメリカ合衆国やヨーロッパでは、国家安全保障の観点から、強制送還を認めるべきだという声が高まっています。しかし、一方で、新たに締結された国際条約では、どのような状況であっても強制送還を認めない具体的な義務が盛り込まれるようになっています。

これらの要因は、各国やEUが安全保障と人権のバランスを取りながら、ノン・ルフールマン原則とどのように向き合うかを模索させています。

現在、ノン・ルフールマン原則は、1951年の「難民の地位に関する条約」、1967年の「難民の地位に関する議定書」、1984年の「拷問等禁止条約」に加盟している国からの難民の追放・送還を防ぐために機能しています。しかし、実際には、国際法の原則を無視した一部の締結国による難民の強制送還や、難民が迫害者の手に渡る状況を防げていません。

事例

ノン・ルフールマン原則に関する一例として、2007年にイスラエルがダルフール紛争の難民320名を拘束した事例があります。イスラエルは、反ユダヤ主義的な環境から自国を守るために制定された法律を適用し、ダルフール紛争から逃れてきた難民を「敵性国民」とみなし、拘束しました。その後、200人は「脅威がない」として強制送還され、残りはイスラエルの集団農場に釈放されました。

脚注

外部リンク

Defining the parameters of the non-refoulement principle, LLM thesis
The Principle of Non-Refoulement, Cambridge Roundtable Discussion Results on the definition.

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