ノヴム・オルガヌム

『ノヴム・オルガヌム』とは



『ノヴム・オルガヌム』(羅: Novum Organum, 「新しいオルガノン」)は、17世紀のイギリス哲学者フランシス・ベーコンによって1620年に発表された哲学の著作です。この著作は、ベーコンが構想した壮大な哲学体系『大刷新』(Instauratio Magna)の第二部として位置づけられています。

本書のタイトルは、アリストテレス論理学の著作『オルガノン』を意識して命名されました。ベーコンは、従来の学問の方法論を批判し、新しい知識獲得の方法を提唱しようとしました。彼は、政治家としての経験から得た哲学的な洞察を基に、新しい帰納法の哲学的な基礎を確立しようと試みました。ベーコンは本書をイギリス国王に献呈し、「この著作は新しい論理学であり、帰納法による思考と判断の方法を教えるものである」と述べています。

構成



『ノヴム・オルガヌム』は、以下の構成からなります。

序文
第1巻:「自然解明と人間支配についてのアフォリズム」 - 130の格言から構成されていますが、後半では説明的な長文も多く見られます。
第2巻:「自然解明と人間支配についてのアフォリズム 第二巻」 - 52の格言から構成されています。

内容



ベーコンは、従来の学問が、経験に基づかない推論や少数の事例からの性急な一般化に頼っていると批判しました。彼は、アリストテレスをはじめとする古代ギリシア[[哲学]]や中世スコラ哲学を、具体的な成果を上げていないと評価し、その原因を方法論の問題にあると考えました。ベーコンは、人間の理性は、イドラ(偶像)と呼ばれる4種類の先入観偏見によって誤った方向に導かれると指摘しました。イドラとは、以下のものです。

1. 種族のイドラ:人間本性に起因する偏見で、物事を人間が理解しやすい形に変えてしまう傾向。
2. 洞窟のイドラ:個人の性格や環境、教育によって生じる偏見で、外界に対する見方を歪めてしまう。
3. 市場のイドラ:社会活動における言語の不適切な使用によって生じる偏見
4. 劇場のイドラ:既存の哲学における権威ある学説によって生じる偏見

ベーコンは、これらのイドラを排除することこそが、真の知識を得るための第一歩であると主張しました。

ベーコンは、真の知識を得るためには、観察と実験を重視し、集められた情報を帰納法によって整理する必要があるとしました。彼は、科学にはコロンブスが新大陸を発見したように、新しい成果を挙げる余地が残されていると述べました。独断を避け、客観的な観察と組織的な実験を行い、集められた情報を帰納法によって整理することで、正しい結論に到達することができると説きました。

ベーコンは、知識や学問はそれ自体が目的ではなく、あくまで他の目的を達成するための手段であると考えました。彼は、人間が自然を観察し、自然についての知識を獲得し、その知識によって自然を支配することによって、人間の生活を改善し、人々に幸福をもたらすことができると主張しました。「知は力なり」という言葉は、この考え方を表しています。

真の知識を得るためには、イドラを取り除いた上で、観察と実験に基づいて事実を検証し、法則を発見する必要があります。この方法が実験的方法、すなわち帰納法と呼ばれるもので、近代科学の基礎となりました。

訳書


『ノヴム・オルガヌム―新機関』 ベーコン著、桂寿一訳 岩波文庫、1978年

関連項目


知識は力なり
オルガノン
* 帰納

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