ノーザンスパイ

ノーザンスパイ：アメリカ生まれの伝統的なリンゴ

ノーザンスパイは、19世紀初頭にアメリカ合衆国ニューヨーク州で生まれたリンゴの古い品種です。その起源は1800年頃、コネチカット州から持ち込まれた苗木にあるとされていますが、正確な品種親は不明です。日本には明治初期に導入され、「君が袖」という日本名が与えられました。現在でも、その独特な風味と多様な用途で愛され続けています。

特徴

ノーザンスパイの木は中程度の大きさで、直立して成長します。実をつけるまでに時間がかかるため、通常は強勢台木に接ぎ木されます。自家不和合性を持つため、受粉には別の品種が必要です。また、隔年結果性が見られることがあります。病害虫への耐性はあまり高くありませんが、ワタムシには非常に強いため、台木や耐性品種を作るための親木として利用されることがあります。

果実は大きくて丸みを帯びており、表面にははっきりとした畝があります。果皮は薄く、地色は緑色で、赤色の縞模様が入ります。また、表面には小さな白い斑点が散らばっています。果肉はきめ細かく、硬めでシャキシャキとした食感です。果汁が豊富で甘酸っぱい風味が特徴で、ビタミンCも比較的多く含まれています。貯蔵性が非常に高く、長期保存にも適しています。

用途

ノーザンスパイは、生で食べるのはもちろん、アップルパイやアップルソースなどの料理にも広く利用されます。また、ジュースやシードルの原料としても使用され、その多様な用途が魅力です。

歴史

ノーザンスパイは、1800年頃にニューヨーク州の農場で、Heman Chapin によって育てられました。枯れてしまった苗木の根元から伸びた新梢から育てられたものが、1830年頃に初めて結実し、その優れた特性から広まりました。丈夫で栽培しやすい品種であるため、19世紀にはアメリカで人気の高いリンゴの一つとなり、広く栽培されました。しかし、果実の形や色のばらつき、皮の傷つきやすさ、耐病性の低さなどから、商業栽培にはあまり向いておらず、現在では主にアメリカ北東部で小規模に生産されています。

名前の由来

「ノーザンスパイ」という名前の由来は定かではありません。一説には、品種を育成したChapin家がアメリカ独立戦争で活躍した将軍を輩出しており、その将軍が防諜機関の設立に関与していたことから名付けられたと言われています。また、Spy、Red Spy、君が袖など、さまざまな別名があります。

逸話

1953年、カナダの新聞社が、共産主義スパイの摘発で知られたアメリカの上院議員に、ジョークとしてノーザンスパイを送ったというエピソードがあります。また、アメリカのパイ職人の間では、「Spies are for pies!（スパイはパイのためにある！）」という言葉があり、アップルパイにはノーザンスパイを使うのが一番であるという考え方が広まっていました。2013年には、アメリカ郵政公社が歴史的なリンゴ品種を描いた切手を発行し、その中にノーザンスパイも選ばれています。

派生品種

ノーザンスパイからは、枝変わりや交配によって多くの派生品種が生まれています。枝変わりとしては、Crimson Spy、Double Red Northern Spyなどがあります。また、交配親としては、Sandow、Coconut Crunchなど、多くの品種の育成に貢献しています。

ノーザンスパイは、その長い歴史の中で、アメリカの食文化に深く根ざしたリンゴ品種です。その独特の風味と多様な用途は、これからも多くの人々に愛され続けることでしょう。

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