ノートゲルト

ノートゲルト：ドイツ・オーストリアの地域通貨

ノートゲルト（Notgeld）は、20世紀初頭のドイツやオーストリアで、主に地域内で流通した代替通貨です。法定通貨ではなく、中央銀行以外の様々な機関によって発行されました。その背景には、第一次世界大戦や戦間期の経済状況がありました。

発行の背景

ノートゲルトは、ドイツでは特に20世紀初頭に多く発行されました。これは、第一次世界大戦による戦費負担とインフレが原因です。硬貨の価値が額面を超えてしまい、貴金属として貯蔵される事態になりました。また、硬貨の材料となる金属が軍需物資に必要となり、深刻な金属不足が発生しました。その結果、紙幣による代替が行われました。このノートゲルトは、地方の銀行、自治体、民間企業、国有企業などが発行し、法定通貨を補完する役割を担いました。

さまざまな形態

ノートゲルトは、主に紙幣の形で発行されましたが、硬貨、革、絹、リネン、切手、アルミホイル、石炭、再生紙など、多様な素材も用いられました。この多様性が、コレクターにとって魅力的な要素となりました。

第一次世界大戦中のノートゲルト

ノートゲルトの最初の大規模な発行は、第一次世界大戦中に始まりました。戦時インフレによって硬貨の価値が上がり、流通しなくなると、各地でノートゲルトが発行されました。金属不足を補うために、紙幣がその代わりを務めたのです。

戦間期のノートゲルト

終戦後もインフレは続き、1920年には硬貨の価値が紙幣を上回りました。そのため、地方自治体や商店が1ペニヒや2ペニヒといった少額のノートゲルトを発行するようになりました。これらの紙幣は非常に多様で、コレクターの収集対象となり、シリーズシャインと呼ばれる連番の絵柄を使ったものや、額面や素材に工夫を凝らしたものが登場しました。また、ノートゲルト専門誌が発行され、架空の自治体から発行されたものまで存在したそうです。投機の対象にもなり、イベント告知や政治的メッセージを込めたものも現れました。

1922年7月には、シリーズシャインのような過剰なノートゲルトの発行が禁止され、通常のノートゲルトの発行にもライヒスバンクの許可が必要になりました。しかし、インフレは止まらず、発行されるノートゲルトの額面も巨額化し、1000マルクのものまで登場しました。

ハイパーインフレとノートゲルト

1923年にフランスがルール地方を占領すると、マルクの価値は急落し、ハイパーインフレが発生しました。公式通貨であるパピエルマルクが信用を失う中、各自治体はノートゲルトの発行をさらに進めました。10月には、ライヒスバンクが私企業にもノートゲルトの発行を条件付きで認可しました。インフレが過熱化するにつれ、ノートゲルトの額面は増大し、100兆、200兆といった単位のものや、額面自体がないものまで発行されました。この時期に発行されたノートゲルトは、150億枚、発行総額は10億金マルク近くに達すると推定されています。

当時のライヒスバンク総裁は、ノートゲルトの発行がインフレで利益を得る安易な方法として、地方自治体や大企業で広く行われたと指摘しつつ、1923年の急激な価値下落の際に、帝国銀行券の供給不足を補い、信用を維持する役割を果たしたと評価しています。発行直後のノートゲルトは、商品やサービスとの交換が可能であり、紙幣よりも高い価値を持っていました。しかし、インフレによってその価値は瞬く間に低下しました。

ノートゲルトの終焉

1923年11月、ライヒスバンクはレンテンマルクを発行し、デノミネーションを実施しました。11月17日には、ライヒスバンクがノートゲルトを含む緊急紙幣の受領を禁止し、発行元に買い取りを請求するよう通達しました。少額のノートゲルトは紙切れ同然となり、古紙回収業者に引き取られましたが、高額のノートゲルトは回収され、レンテンマルクと交換されました。1924年7月頃までに、この交換は完了しました。

ノートゲルトは、その発行の背景にある社会情勢や、多様なデザイン、素材、額面などから、歴史的価値とコレクションとしての価値を持つ、興味深い存在です。

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