金マルク

金マルク：ドイツ帝国の基軸通貨

金マルク（Goldmark）は、1873年から1914年までドイツ帝国で使用された通貨です。正式には単にマルクと呼ばれていましたが、第一次世界大戦後のインフレーションで価値を失ったパピエルマルク（紙幣マルク）と区別するために、「金マルク」という名称が用いられるようになりました。

歴史的背景

ドイツ帝国成立以前、ドイツには多数の領邦が存在し、それぞれが独自の通貨を発行していました。しかし、それらの多くは「ターラー」と呼ばれる銀貨と交換可能でした。マルクは金本位制に基づいた通貨でしたが、慣例的に3マルク＝1ターラーという固定交換レートが用いられていました。また、ドイツ南部ではグルデンという金貨が広く使用されており、1グルデンは1.71マルクに相当しました。

ブレーメンではターラー、ハンブルクでは独自のマルクが使われていましたが、1873年以降、マルクが唯一の法定通貨となりました。金マルクは、2790マルクで純金1キログラムと等価となる金本位制でした。しかし、1914年にマルクと金の兌換が停止されると、それ以降のドイツマルクはパピエルマルクと呼ばれるようになり、第一次世界大戦後のハイパーインフレによりその価値は著しく低下しました。ヴェルサイユ条約では、ドイツはパピエルマルクではなく金マルクで、巨額の賠償金を支払うことが求められました。

コイン

金マルク時代には、様々な種類のコインが発行されました。

卑金属コイン
1ペニヒ：銅製（1873-1916年）、アルミニウム製（1916-1918年）
2ペニヒ：銅製（1873-1916年）
5ペニヒ：白銅製（1873-1915年）、鉄製（1915-1922年）
10ペニヒ：白銅製（1873-1916年）、鉄と亜鉛製（1915-1922年）
20ペニヒ：白銅製（1887-1892年）
25ペニヒ：ニッケル製（1909-1912年）
50ペニヒ：アルミニウム製（1919-1922年）

銀貨
銀貨は純度.900で、1マルクにつき5グラムの銀が使用されました。
20ペニヒ：1.1111g（銀1g、1878年まで発行）
1/2マルク（50ペニヒ）：2.7778g（銀2.5g）
1マルク：5.5555g（銀5g）
2マルク：11.1111g（銀10g）
3マルク：16.6667g（銀15g、1908年以降発行）
5マルク：27.7778g（銀25g）

銀貨は1915年までに製造が終了しましたが、1マルク銀貨は1916年まで、3マルク銀貨は1918年まで、1/2マルク銀貨は1919年まで製造されました。

金貨
金貨は純度.900で、2790マルク=金1キログラムとなるように製造されました。
5マルク：1.9912g（金1.7921g、1877～1878年のみ製造）
10マルク：3.9825g（金3.5842g）
* 20マルク：7.965g（金7.1685g）

金貨の製造は1915年に終了しました。

コインのデザインは、1マルクまでは帝国全土で統一されていましたが、1マルク以上のコインは各構成国ごとに発行され、裏面はドイツ帝国国章である鷲の紋章（ライヒスアドラー）が共通で使用され、表面は各国の君主の肖像や市章が用いられました。特に発行枚数の少ない小国のコインは希少価値が高く、リッペ侯国は金貨を発行しなかった唯一の国です。

銀行券

銀行券は、帝国国庫やドイツ帝国銀行、そして一部の構成国の銀行から発行されました。帝国国庫発行の帝国紙幣は5、10、20、50マルクがあり、ドイツ帝国銀行券は20、50、100、1000マルクがありました。1914年以降に発行されたこれらの銀行券は、パピエルマルクと呼ばれます。

通貨記号

マルクの通貨記号はUnicodeの「ℳ」（U+2133）であり、ペニヒの通貨記号は「₰」（U+20b0）です。

金マルクは、ドイツ帝国経済の基礎を支えた重要な通貨でした。その歴史は、ドイツの政治、経済、社会の変遷を映し出す鏡でもあります。

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