ハイデルバーグ派

ハイデルバーグ派：オーストラリア印象派の先駆者たち

19世紀後半のオーストラリア美術界に現れたハイデルバーグ派は、ヨーロッパ印象派の影響を受けつつ、独自の自然観と文化意識を表現した画家たちのグループです。彼らは、オーストラリアの風景や人々の生活を、印象派や自然主義のスタイルで描き出しました。

誕生の背景

「ハイデルバーグ派」という名称は、1891年に美術評論家のシドニー・ディクソンが、アーサー・ストリートンやウォルター・ウィザーズといった画家たちの作品を批評した際に初めて用いられました。彼らはメルボルン郊外のハイデルバーグで、戸外制作を行っていました。ハイデルバーグはメルボルンの東に位置する農村地域であり、スイス人風景画家ルイ・ビュベロが1860年代に風景画を描いた場所としても知られています。1880年代末にアーサー・ストリートンがこの地を訪れた際、鉄道から離れた場所に位置していたため、家賃が安く、主要メンバーたちはメルボルン周辺の風景を描くようになりました。

主要メンバーと活動

ハイデルバーグ派の中心メンバーは、アーサー・ストリートン、ウォルター・ウィザーズ、トム・ロバーツ、チャールズ・コンダー、フレデリック・マッカビンらです。彼らは1880年代から1890年代にかけて、メルボルンやシドニー周辺の「アーティスト・キャンプ」で共同生活を送りながら制作活動を行いました。

「9×5印象派展」

ハイデルバーグ派は、オーストラリア美術史における重要なイベント「9×5印象派展」(9 by 5 Impression Exhibition)を開催したことでも知られています。1889年にメルボルンで開催されたこの展覧会では、コンダー、ロバーツ、ストリートンらが、9インチ×5インチ（23cm×13cm）の葉巻箱の蓋に描かれた183点の作品を展示し、印象派の立場を明確にしました。この展覧会は大きな話題を呼び、3週間の会期中に多くの観客が訪れました。

オーストラリアのアイデンティティ

ハイデルバーグ派の作品には、1901年のオーストラリア連邦成立を前に、オーストラリア独自の文化的伝統を築こうとする意識が反映されていると見られています。彼らは、ヨーロッパの模倣ではない、オーストラリアならではの風景や生活を描くことで、新しい国のアイデンティティを表現しようとしました。

その後

1890年代に入るとメルボルンが不況に見舞われたため、ロバーツやストリートンは活動拠点をシドニー周辺に移しました。現在では、「ハイデルバーグ派」という言葉は、19世紀末のオーストラリアにおける「外光派」の画家たちを広く指す言葉として使われています。

ハイデルバーグ派は、オーストラリア美術の発展に大きく貢献しただけでなく、オーストラリアの文化とアイデンティティの形成にも重要な役割を果たしました。彼らの作品は、現在も多くの人々に愛され、オーストラリア美術の重要な一部として評価されています。

「9×5印象派展」に出展された作品

[9×5印象派展の作品画像]

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