ハイトーン

ハイトーン（HI-TONE）は、かつて日本たばこ産業（JT）が沖縄県限定で製造・販売していたフィルター付きの紙巻たばこ銘柄です。沖縄のたばこ市場において、独自の歴史を持つ存在でした。

その歴史は、沖縄がまだアメリカ統治下にあった時代に遡ります。1950年代初頭、香港のイギリス系資本が沖縄でのたばこ生産を計画しました。当初、現地の有力なたばこ会社である琉球煙草社との提携を目指しましたが、これは実現しませんでした。計画は頓挫しかけたものの、その後、沖縄県内の商社との協力により、1953年に琉球香港煙草株式会社が設立されるに至ります。翌1954年4月には、香港から葉たばこを輸送し、沖縄本島の豊見城村に建設された工場で現地生産を開始しました。しかし、市場での受け入れは芳しくなく、売れ行きが低迷した結果、会社はわずか半年後の同年10月には早くも解散するという憂き目に遭いました。

琉球香港煙草の工場施設は、その後琉球銀行の管理下に置かれましたが、1956年になり、その設備を引き継ぐ形でオリエンタル煙草株式会社が設立されます。これにより、沖縄における紙巻たばこ生産に再び参入する動きが生まれました。オリエンタル煙草は、琉球煙草に次ぐ沖縄のたばこ業界における二番手メーカーとして地位を確立していきました。

「ハイトーン」銘柄が誕生したのは、オリエンタル煙草の手によってです。1964年に発売されたハイトーンは、それまでの沖縄市場に存在した銘柄と比較して、より軽い吸い味が特徴とされ、消費者の多様なニーズに応えようとする試みでした。

そして、1972年の沖縄本土復帰を迎えると、日本のたばこ専売制度が沖縄にも適用されることになりました。これにより、オリエンタル煙草を含む現地のたばこ事業は、当時の日本専売公社に引き継がれることとなります。ハイトーンもまた、この移行に伴い専売公社の管理下に入りましたが、その後も沖縄県向けの地域限定銘柄として製造・販売が続けられました。オリエンタル煙草から専売公社に引き継がれた他の銘柄には「ロン」(Lon)がありましたが、こちらは1978年に製造が終了しており、ハイトーンはより長く存続した銘柄でした。

ハイトーンは、沖縄返還時に旧専売公社に引き継がれ、さらにその後のJT民営化後も販売が継続された数少ないブランドの一つでした。使用されるたばこ葉は比較的品質が良く、本土の一般的なブランドと比較して安価でありながら、税法上の旧3級品には分類されない位置づけでした。この価格設定は、沖縄の消費者にとって魅力の一つであったと考えられます。

パッケージデザインに関しては、基本的なデザインが沖縄返還当時のものを踏襲していました。後年、健康への警告表示が強化されるのに伴い、その部分にアレンジが加えられましたが、全体的なイメージは大きく変わることなく愛され続けました。また、ハイトーンの封緘紙デザインは、沖縄限定の「バイオレット」や本土でも販売されていた「ハイライト」といった他の銘柄と共通のデザインが使用されていました。

しかし、その歴史も終焉を迎えます。2011年5月12日、発生した東北地方太平洋沖地震（東日本大震災）の影響による生産体制の見直しが実施される中で、ハイトーンは販売量が少ないことを理由に製造打ち切りが決定されました。これにより、長年にわたり沖縄のたばこ文化の一部であったハイトーンは、その姿を消すこととなりました。

ハイトーンは、戦後の沖縄におけるたばこ産業の変遷、本土復帰、そして地域限定銘柄の役割を体現する存在であり、沖縄のたばこ史において記憶されるべき銘柄の一つと言えるでしょう。

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