ハイドロジェノソーム

ハイドロジェノソーム（ヒドロゲノソーム）とは

ハイドロジェノソーム（Hydrogenosome）は、真核細胞内に存在する二重膜に囲まれた細胞小器官の一種です。主に嫌気的条件下で、水素とATP（アデノシン三リン酸）を産生する役割を担っています。ATPは細胞のエネルギー通貨として知られ、ハイドロジェノソームは細胞が生存に必要なエネルギーを供給する上で重要な役割を果たしています。

進化の過程

ハイドロジェノソームは、ミトコンドリアが進化の過程で特殊化したものと考えられています。ミトコンドリアと同様に二重膜構造を持ち、一部の生物では内膜にクリステのような構造が見られます。しかし、ハイドロジェノソームはミトコンドリアに比べて構造が単純化されており、独自のゲノムを失っている場合が多いです。

発見の歴史

ハイドロジェノソームは1970年代初頭にLindmarkとMüllerによって発見されました。当初は細菌が細胞内共生したものと考えられていましたが、後の研究でミトコンドリアとの関連性が示唆されました。1996年には、トリコモナスのハイドロジェノソームからミトコンドリアと相同性の高い熱ショックタンパク質が発見され、ミトコンドリア由来であることが強く支持されました。

ハイドロジェノソームの特徴

構造: 直径約1μmの小器官で、二重膜で囲まれています。内膜にはクリステに似た突起が見られることもあります。
機能: 嫌気的条件下で、ピルビン酸やリンゴ酸を分解し、水素、二酸化炭素、酢酸、そしてATPを生成します。
ゲノム: 多くの生物ではゲノムを失っていますが、一部の生物（例：ゴキブリに寄生する繊毛虫 Nyctotherus ovalis）ではゲノムが残存しています。
分布: 一部の繊毛虫、パラバサリア類、菌類などの嫌気性生物に見られます。

ミトコンドリアとの比較

H+

代謝経路

ハイドロジェノソームにおける代謝は、解糖系の最終産物であるピルビン酸から始まります。ミトコンドリアではピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体が働くのに対し、ハイドロジェノソームではPFOR（ピルビン酸：フェレドキシン酸化還元酵素）が機能します。一部の生物ではPFL（ピルビン酸ギ酸リアーゼ）が利用されます。ATP合成は基質レベルのリン酸化によって行われ、スクシニルCoA合成酵素が触媒します。

ハイドロジェノソームを持つ生物

トリコモナス: 人畜に感染症を引き起こす寄生虫で、ハイドロジェノソームの研究が最も進んでいます。
ネオカリマスティクス: 反芻動物のルーメンに生息する真菌です。
Nyctotherus ovalis: ゴキブリの後腸に生息する繊毛虫で、細胞内に多数のハイドロジェノソームを持っています。この繊毛虫は細胞内共生しているメタン菌と共生しており、メタン菌はハイドロジェノソームが生成する水素を利用してメタンを生成しています。

進化の中間段階

ゴキブリに寄生する繊毛虫の Nyctotherus ovalis ではハイドロジェノソームのゲノムが残っており、ミトコンドリアからハイドロジェノソームへの進化の中間段階を示すものと考えられています。

参考文献

"Organelles, Genomes and Eukaryote Phylogeny: An Evolutionary Synthesis in the Age of Genomics" Robert P Hirt, David S. Horner Eds., CRC Press (April 23, 2004) ISBN 978-0415299046

関連項目

ミトコンドリア
メタモナス

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