ハイ・ウォーター計画

ハイ・ウォーター計画（Project Highwater）は、1960年代初頭にアメリカ合衆国が進めていたアポロ計画に関連して実行された一連の科学実験でした。特に、新型大型ロケットであるサターンIの開発初期段階における発射試験に付随する形で実施された点が特徴です。この計画の主な目的は、宇宙空間、より正確には地球の大気圏上層部に大量の水を突如として散布した場合、その周囲の環境、特に無線通信や気象パターンにどのような影響が及ぶかを調査することにありました。

実験は1962年に合計二回実施されました。第一回は同年4月25日、アポロSA-2ミッションの一部として、第二回は同年11月16日、アポロSA-3ミッションの中でそれぞれ行われました。いずれの実験も、計画としては成功裏に終了したと評価されています。

実験の内容は、その発想において非常にユニークなものでした。サターンIロケットのペイロード部分、すなわち通常は宇宙船や衛星などが搭載される上段に、約100トンもの純粋な水を搭載します。ロケットはフロリダ州のケープ・カナベラルから打ち上げられ、順調に上昇を続けます。そして、第一段ロケットの燃焼が停止し、機体が十分に高い高度に到達した時点で、事前に仕掛けられた火薬によってロケット本体が意図的に破壊されました。この爆破により、搭載されていた大量の水が大気圏上層部に一気に放出、散布されるというメカニズムでした。具体的には、第一回実験では高度約105キロメートル、第二回実験では高度約167キロメートルという、いずれもカーマンラインを大きく超える宇宙空間に近い領域で水の散布が行われました。

突如として高空に放出された100トンの水は、瞬時に広がり、直径数キロメートルにも達する巨大な水蒸気や氷の粒子による「雲」を形成しました。研究者たちはこの現象を地上や航空機などから詳細に観測し、事前に設定した目的、すなわち通信電波の伝搬特性の変化や、長期的な気象への影響などを慎重に調べました。

しかしながら、これらの周到な観測にもかかわらず、期待されていたような大きな影響はほとんど観測されませんでした。大気圏上層部における水の散布は、地上や比較的低い高度での気象現象に直接的かつ明確な影響を与えるほどの効果は持たなかったと結論付けられています。

一方で、この実験には副次的ながらも示唆に富む側面もあったと考えられています。それは、大型ロケットが構造的に破壊された際に、搭載されていた燃料や機体の破片がどのように振る舞うかという点に関する知見です。意図的な爆破による水の散布という特殊な状況ではありますが、ロケットの破壊とそれに伴う物質の飛散挙動を実際に観測できたことは、将来的なロケットの安全性評価や事故発生時の影響予測などにおいて、わずかながらも参考となる情報を提供した可能性が指摘されています。

ハイ・ウォーター計画は、主要な目的である通信・気象への影響調査においては目立った成果を上げませんでしたが、新型ロケットの初期飛行試験という文脈において、また高高度での物質散布実験という特異な試みとして、アポロ計画初期の一つの興味深い側面を示しています。

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