ハクガン

ハクガン

ハクガン（白雁、学名：Anser caerulescens）は、鳥類の一種で、カモ目カモ科マガン属に分類されています。その名の通り、白い羽色を持つ個体が多いことから「白雁」と名付けられました。北米大陸やシベリアなどの高緯度地域で繁殖し、冬季にはより南の地域へと渡って越冬します。

形態の特徴

成鳥の体長は通常66センチメートルから84センチメートルほどになり、翼を広げると132センチメートルから165センチメートルに達する、比較的大きなガン類です。この鳥の大きな特徴の一つは、羽色のバリエーションが豊富なことです。大部分の羽毛が白く、翼の先端部分を構成する初列風切だけが黒い個体は「白色型」と呼ばれ、ハクガンの代表的な姿として知られています。この白色型が、和名の由来となっています。

しかし、全身が淡い青灰色や濃い青灰色をしている「青色型」も存在し、まれに背中側が青灰色で腹側が白い「中間型」も見られます。これらの色変異は、特に若い個体で観察されることがあります。

嘴は鮮やかな赤紫色やピンク色をしており、後肢も同様にピンク色をしています。この特徴的な嘴と後肢の色は、白い羽衣によく映えます。

亜種によって若干の体格差があり、特に翼の長さには違いが見られます。オオハクガン（A. c. atlanticus）の翼長はオスが43センチメートルから48.5センチメートル、メスが42.5センチメートルから47.5センチメートル程度であるのに対し、基亜種であるハクガン（A. c. hyperboreus）はオスが39.5センチメートルから46センチメートル、メスが38.7センチメートルから45センチメートルと、やや小型の傾向にあります。

分布と亜種

ハクガンは、カナダ、グリーンランド（デンマーク）、アメリカ合衆国、メキシコ、ロシア、中華人民共和国、大韓民国、インド、日本など、北半球の広範囲に分布しています。その分布域は大きく二つの亜種に分けられます。

1. *オオハクガン（Anser caerulescens atlanticus）：主にカナダ北東部やグリーンランド西部で繁殖します。冬になると、北アメリカ大陸の東側、特に大西洋沿岸部へと南下して越冬します。
2. ハクガン（Anser caerulescens hyperboreus）*：カナダ北部、アラスカ州、ロシア領のウランゲリ島、シベリア東部などで繁殖します。冬季の越冬地は、北アメリカ大陸の西部が中心です。日本へ飛来するのはこの亜種で、冬鳥としてごくまれに観察されます。

世界的に見ると、ハクガンは多くの国で見られる渡り鳥です。

生態

ハクガンは、湖沼や河川、内湾といった水辺やその周辺に生息しています。群れを作って行動することが多く、特に渡りの時期や越冬地では大規模な群れを形成します。

食性は植物食で、主に植物の葉、根、茎、水生植物などを食べます。特に越冬地では、農耕地の落ち穂や新しい芽なども採食することが知られています。

繁殖は卵生で行われます。繁殖期は通常5月から6月にかけてで、地面に営巣し、一度に4個から5個の卵を産みます。抱卵期間は22日から24日程度です。

人間との関わりと保全

広大な農耕地で採食することがあるため、農作物、特にコメやトウモロコシなどを食害する存在として、一部の地域では「害鳥」とみなされることもあります。

日本においては、かつては冬になると多数のハクガンが越冬のために飛来していました。しかし、残念ながら無秩序な狩猟（乱獲）の影響でその数は激減し、1940年代までには日本で越冬する集団は事実上消滅してしまったと考えられていました。

この危機的な状況を受け、ハクガンを再び日本の空に戻そうという取り組みが始まりました。1993年には国際的な協力のもと、「ハクガン復元計画」がスタートしました。地道な努力の結果、越冬のために日本へ飛来するハクガンの数は徐々に回復傾向にあり、かつての賑わいを取り戻しつつあります。現在、宮城県の伊豆沼・内沼などが主な越冬地として知られています。

こうした取り組みにもかかわらず、ハクガンは依然としてその生息数が危機的な状況にあると認識されています。環境省が公表するレッドリストでは、最も絶滅のおそれが高いランクである「絶滅危惧IA類（CR）」に指定されており、今後も継続的な保護活動が必要とされています。

ハクガンの復活は、人間活動による影響から野生生物を守り、一度失われた自然のつながりを取り戻すための重要な事例の一つと言えるでしょう。今後のさらなる回復が期待されています。

もう一度検索