ハクニー

ハクニー：優雅な馬車の名手

ハクニーは、その独特な歩様と優美な外見で知られる馬の品種です。中間種または乗系種に分類され、特に馬車を引く姿は非常に優雅で、その能力から馬車用の最上級品種として知られています。馬車競技にも用いられるため、輓系とされることもあります。

ハクニーの名前の由来

「ハクニー」という名前の由来には諸説あります。一つは、中世フランス語の「haque（やくざ馬）」に由来するという説。もう一つは、ノルマン語の「hakny（馬）」に由来するという説です。

ハクニーの特徴

ハクニーの体高は140～153センチメートル程度で、イギリスが原産国です。被毛は美しく、栗毛、鹿毛、黒鹿毛、青毛などがあります。特徴的なのは、小さな頭に小さな耳、そして大きな目です。首は長く、肩に対して垂直に立ち上がっており、筋肉がよく発達しています。体型はコンパクトで、四肢は短く、特に後肢が強いのが特徴です。尾は高い位置についています。ハクニーは、頑健で持久力があり、勇気があるため、馬車を引いてもスピードと持久力が落ちません。

自動車が普及するまでは、道路交通の主役であり、軍馬としても活躍しました。特に、強健な後肢で立ち上がり、敵の騎馬を威圧し踏み倒すという馬術に用いられました。現代では、主に馬車競技でその姿を見ることができます。

ハクニー歩様

ハクニーの最大の特徴は、その独特な歩様です。常歩（なみあし）の際に肘と膝を高く上げ、直線的で確固とした、優雅で芸術的な歩様は「ハクニー歩様」と呼ばれ、競技の審査で最も重要視されます。その優雅さからバレリーナに例えられることもあります。この特徴的な歩様を際立たせるため、蹄は長く伸ばされます。歩様は左右にぶれてはならず、正確性が求められます。ハクニー歩様は、ハクニーだけでなく、イヌなど他の家畜動物の芸術的審査においても重視されることがあります。

ハクニーの歴史

ハクニーの原種は、もともとイギリスに生息していた野生種で、15世紀後半から17世紀にかけて、軽騎兵の乗用として用いられました。この原種は保護され、特にヘンリー8世は、許可なく外国へ輸出することを禁じました。

これらの原種は、生産地の名前を冠して、ノーフォークトロッター、リンカーンシャートロッター、ヨークシャーロードスターなどの名前で知られていましたが、いずれも現存していません。

18世紀に入ると、これらの速歩種に気品や優雅さを加える目的で、アラビア産の馬（のちのサラブレッド）を交配して品種改良が行われました。この品種改良に大きな影響を与えたのは、前肢を高く持ち上げる走法で有名なブレイズという牝馬です。ブレイズは、ダーレーアラビアンの血を引いており、スタンダードブレッドの祖であるメッセンジャーの近親でもあります。ブレイズの産駒であるシェールズホースが、現存するハクニー種の始祖とされています。

当時、見栄えの良いハクニーが牽く飾り立てた馬車は、ステータスシンボルでした。ハクニーは遺伝力が強く、アウトブリードによってもその特徴が失われることはありませんでした。イギリスの道路事情が改善され、軽快でスピードの出る馬車が普及すると、牽引馬としてハクニーは大きな需要がありました。ハクニーはアメリカ、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンなど世界各地に輸出され、広まりました。フランスでは、舗装道路にハクニーが牽く辻馬車が登場しました。

その後、蒸気機関の発明や鉄道の普及によって馬車の需要が減少し、モータリゼーションが急速に進んだ1930年代には、絶滅の危機に瀕しましたが、少数の生産者によって保護されました。現在では、実用よりも競技用としての生産が主となり、力強さよりも美しさを重視した改良が進められています。

1872年には、ハクニーにウェルシュポニーやフェルポニーを交配し、小型のハクニーポニーという品種も誕生しました。血統登録は1883年に始まり、2000年までに血統書は54巻に達しています。

ハクニーの有名馬

レイディコンバーメア (Lady Combermere) - 1895年に20マイル（約32キロメートル）を1時間で走破した。
プリテンダー (Pretender) - 1801年にアメリカに輸出された最初のハクニー。
リトルワンダー (Little Wonder) - 1885年にアメリカに輸出された種牡馬で、現在のアメリカ産ハクニーの父祖。
ペイシェンス (Patience), バターカップ (Buttercup), ステラ (Stella) - リトルワンダーと同時にアメリカに輸出された牝馬で、現在のアメリカ産ハクニーの母祖。
ティプシーケーキ (Tipsey Cale) - 1922年の1頭牽き馬車チャンピオン。
サウスワーススウェル (Southworth Swell) - イギリスのチャンピオン種牡馬。

日本への導入

明治時代から昭和初期にかけて、実用馬として日本でもハクニーが生産されました。特に、サラブレッド競馬の馬券発売が禁止されていた時期には、サラブレッドよりも多く生産されていたこともあります。

1902年には、小岩井農場が種牡馬ブラックパフォーマーを輸入し、数々の賞を受賞しました。1919年までに328頭の産駒を輩出し、小岩井農場では、サラブレッドよりもハクニーの繋養頭数が多かった時期もありました。

小岩井農場は独自にハクニーとサラブレッドの交配を試みましたが、政府が中間種の改良をアングロノルマンに統制する方針に転換したため、ハクニー生産は抑制されました。これにより、昭和に入るとハクニーの生産は減少し、昭和9年以降は生産が行われなくなりました。

当時輸入された主な種牡馬には、セッジフォードリッパー、ウィッチャム、ウィッチャムジェントルマン、フォーレストビュー、スチートンパフォーマー、ロンスヂューク、ケープノアキララ、サンダーランドピーターなどがいます。

ハクニーは、その優雅な姿と独特な歩様で、今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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