ハゼ科

ハゼ科（Gobiidae）

ハゼ科は、スズキ目ハゼ亜目（またはハゼ目）に属する、非常に多様な魚類のグループです。200を超える属が存在し、魚類の中でも最大の科の一つとされています。極地を除く世界中の水域に分布しており、淡水から深海まで、幅広い環境に適応しています。多くは10cm以下の小型種ですが、中には30cmを超える大型種も存在します。

形態

ハゼ科の魚は、一般的に細長い体型をしています。体の前半部分は円筒形であることが多く、コバンハゼのように側扁した短い体型や、ワラスボのようにウナギのような細長い体型も存在します。体側には側線がなく、ほとんどの種で2基の背鰭を持っています。第一背鰭は棘条で構成されており、ミミズハゼ類には背鰭や胸鰭を欠く種類もいます。腹鰭は左右が融合して吸盤状になっているか、膜で繋がっていることが多いのが特徴です。

分布と生息地

ハゼ科の魚は、極地を除く世界中の水域に広く分布しています。淡水域、汽水域、海洋、深海など、さまざまな環境で見られます。多くは底生性で、海底に生息し、巣穴を掘る種も多くいます。サンゴ礁では、ハゼ科の魚が個体数全体の35％、種数では20％を占めるなど、重要な存在です。

分類

ハゼ科は非常に多様なグループであり、250を超える属に分類されています。しかし、分類学的な混乱も多く、今後さらに分類の見直しが進むと予想されています。かつては独立した科とされていたオオメワラスボ科、クロユリハゼ科、スナハゼ科、シラスウオ科などはハゼ亜科に、ゴビオネルス亜科、ボウズハゼ亜科、ワラスボ亜科などはオクスデルクス亜科にまとめられました。

現在、ハゼ科はハゼ亜科とオクスデルクス亜科の2つの亜科に分類されることが多いですが、研究者によってはこれらの亜科をそれぞれ独立した科として扱う場合もあります。

ハゼ亜科（Gobiinae）

ハゼ亜科には、旧スナハゼ科、旧オオメワラスボ科、旧クロユリハゼ科、旧シラスウオ科に分類されていたグループや、キララハゼ属、ダテハゼ属、ホシハゼ属、コバンハゼ属、イソハゼ属など、多くの属が含まれています。

オクスデルクス亜科（Oxudercinae）

オクスデルクス亜科には、旧ワラスボ亜科、旧ゴビオネルス亜科、旧ボウズハゼ亜科に分類されていたグループや、マハゼ属、アカハゼ属、ミミズハゼ属、ムツゴロウ属、トビハゼ属などが含まれます。この亜科は、独立したオクスデルクス科として分類される場合もあります。

生態

食性

ハゼ科の魚は、食性が多岐にわたります。ゴカイやエビなどの小型無脊椎動物を捕食する肉食性の種が多いですが、藻類を食べる雑食性、サンゴのポリプを食べる種、プランクトンを食べる種なども存在します。また、他の魚の寄生虫を食べる掃除魚として知られる種もいます。

繁殖と成長

ハゼ科の魚の卵は、沈性付着卵です。石の下や巣穴の中、海藻やサンゴなどに産み付けられます。卵は数日から数週間で孵化し、仔魚は透明な状態で生まれます。淡水種の多くは孵化後、汽水域や海まで降り、数週間から数ヶ月後に川に戻ります。暖かい水域のハゼは数ヶ月で成魚になりますが、冷涼な環境では2年かかることもあります。寿命は1年から10年程度で、温暖な海域に生息する種の方が長寿命な傾向があります。

行動

巣穴

多くのハゼは巣穴を掘って生活します。巣穴は避難場所や産卵場所として利用されます。ハゼは口を使って海底を掘り、サンゴの破片や瓦礫を取り除いて巣穴を形成します。巣穴の入り口に塚を作る種もおり、この塚は水流を生み出し、卵に酸素を供給する役割があります。

雄の繁殖戦略

体の小さな雄は、つがいの産卵場の近くで待ち伏せし、雌が産卵した直後に精子を放出することで、子孫を残す戦略をとります。この戦略は、縄張りを守る必要がないため、エネルギーを節約でき、卵の世話もつがいの雄が行うため、繁殖の機会を増やせるという利点があります。

性転換

一部のハゼは性転換を行います。多くは雄性先熟で、群れに雄がいなくなると、優位な雌が雄に変わります。雌性先熟は、小型の雄が雌に変化することで繁殖の機会を増やす戦略です。コバンハゼ属のように、双方向に性転換できる種もいます。

性決定

シュオビコバンハゼの性別は、最初に出会う相手によって決定されます。これは社会的影響による性決定と呼ばれています。

記憶

一部のハゼは、地形を記憶し、それを移動に利用します。例えば、クモハゼ属の一種は、干潮時に潮だまりを飛び跳ねて移動する際に、地形の記憶を利用しています。

生息地の選択

ハゼは、安全だが餌が少ない場所よりも、餌が多いが危険な場所を好む傾向があります。

共生

いくつかのハゼは、テッポウエビなどの他の生物と共生関係を築いています。また、掃除魚として大型魚の寄生虫を除去する種もいます。

人との関わり

ハゼ科の魚は、食用や観賞用として人々の生活に関わっています。ロシアやウクライナでは、アゾフ海、黒海、カスピ海で漁獲され、重要な食材となっています。日本では、マハゼなどが食用になります。また、美麗な種はアクアリウムで飼育され、観賞魚として楽しまれています。

参考文献

瀬能宏・矢野維幾・鈴木寿之・渋川浩一『新版 日本のハゼ』平凡社 2021年 ISBN 978-4-582-54261-5
中坊徹次『小学館の図鑑Z 日本魚類館』小学館 2018年 ISBN 978-4-09-208311-0
林公義『ハゼガイドブック』阪急コミュニケーションズ 2013年 ISBN 978-4-484-13219-8

関連項目

ハゼ
* 魚類

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