ハトシェプスト女王葬祭殿

ハトシェプスト女王葬祭殿

古代エジプト新王国時代に造営されたハトシェプスト女王葬祭殿は、ナイル川西岸、現代のルクソール近郊のデル・エル・バハリ（Deir el-Bahari）と呼ばれる地域に位置する荘厳な遺跡です。

名称と所在地

この霊廟は、第18王朝のファラオ、ハトシェプスト女王（在位：紀元前1479年頃-1458年頃）のために建設されました。その壮大な景観は、隣接する第11王朝のメンチュヘテプ2世の葬祭複合体と合わせて、地元では「デル・エル・バハリ」という名でも知られています。デル・エル・バハリとはアラビア語で「北の修道院」を意味し、これはローマ帝国時代後期からコプト正教会がこの場所に修道院を構えていたことに由来します。

建築とその背景

ハトシェプスト女王は、古代エジプト史上極めて稀な女性ファラオでした。彼女の治世は比較的長く安定しており、大規模な建築計画や交易活動を推進しました。この葬祭殿は、彼女の神格化と冥福を祈るための重要な建造物であり、その設計は女王の最も信頼厚い側近であり、多才な才能を持っていた建築家センムトによって行われたとされています。

センムトは、背後の自然の断崖絶壁と見事に調和する革新的なデザインを採用しました。葬祭殿は三つの巨大なテラスから構成され、それぞれが緩やかな傾斜路で結ばれています。テラスの前面には列柱が並び、かつては彩色された壁画や彫刻が施され、女王の業績、神々への信仰、そして有名なプントへの遠征などが詳細に描かれていました。特に、最上階には聖域が設けられ、断崖をくり抜いて造られた至聖所へと続いています。この建築様式は、後のエジプトにおける葬祭殿建築に大きな影響を与えました。

歴史における変遷

ハトシェプスト女王が没した後、共同統治者であったトトメス3世が単独の支配者となると、ハトシェプストの存在と業績を歴史から抹消しようとする動きが見られました。これに伴い、ハトシェプスト女王葬祭殿の壁面に刻まれた女王の名前や肖像、碑文などが意図的に削り取られるという損壊を受けました。これは、トトメス3世が自らの正当性を強調し、王権継承の歴史を都合よく改変しようとしたためと考えられています。

その後、この建物は長い年月の間に荒廃しましたが、古代の技術と芸術を示す貴重な遺跡として現代に受け継がれています。

近年の出来事：ルクソール事件

壮麗な歴史を持つこの場所は、現代史において痛ましい出来事の現場ともなりました。1997年11月17日、ハトシェプスト女王葬祭殿の観光客を狙ったテロ事件が発生しました。この事件では、武装した集団が無差別に銃撃を行い、外国人観光客58名を含む合計62名が犠牲となりました。犠牲者の中には、多数の日本人新婚旅行者も含まれており、世界中に衝撃を与えました。この事件以降、エジプト各地の主要な観光地では警備体制が大幅に強化されました。

ハトシェプスト女王葬祭殿は、古代エジプトの女性ファラオの偉大な業績と、それをめぐる歴史の変遷、そして近年の悲劇的な出来事を同時に伝える、複雑で重要な歴史的建造物として、多くの人々に記憶されています。

々の記憶に刻まれています。

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