レイモンド・ローウィ

レイモンド・ローウィ：20世紀を代表するインダストリアルデザイナー

レイモンド・ローウィ (1893年-1986年) は、フランス・パリ生まれのデザイナーであり、20世紀デザイン史における重要な人物です。彼はアメリカ合衆国で主に活躍し、その活動は「口紅から機関車まで」と形容されるほど多岐に渡りました。

ユダヤ系スロバキア人の家庭に生まれたローウィは、パリで電気工学を学びながら、当時最先端技術であった航空機に強い関心を抱きました。第一次世界大戦ではフランス軍工兵大尉として従軍し、戦後は1919年にアメリカ合衆国へ渡りました。ニューヨークで店舗装飾やファッションイラストレーションなどの仕事を経て、1920年代半ばには自身のデザイン事務所を開設します。

ローウィの才能が広く知られるようになったのは、1929年にジグムント・ゲシュテットナー社の複写機のデザインを手がけた時です。それまでの複写機はむき出しの機械でしたが、ローウィはカバーを取り付けることで機能的で洗練された外観に生まれ変わらせました。このデザインは大きな成功を収め、工業製品におけるインダストリアルデザインの重要性を世に知らしめる契機となりました。

1930年代に入ると、ローウィはペンシルバニア鉄道の電気機関車GG1のデザインも担当します。風洞実験に基づいた流線型のデザインは、力学的な合理性と美的魅力を融合したものでした。この流線型デザインは、速度と進歩、現代性を象徴するスタイルとして、自動車など速度が求められる製品のデザインに広く影響を与え、ストリームライン・モダンという新しいデザイン様式を確立しました。一方、このデザインの流行は、デザインが消費され、容易に陳腐化していく時代の到来も示唆していました。

ローウィは1938年にアメリカ市民権を取得し、140社以上の企業のデザインコンサルタントとして活躍しました。その仕事は多岐に渡り、機関車、タバコのパッケージ、家電製品、自動車など、私たちの日常生活に深く関わっている製品のデザインを数多く手がけています。代表的な作品には、ペンシルバニア鉄道の様々な機関車、ブリル社の路面電車、ラッキーストライクのタバコパッケージ、アサヒビール「アサヒゴールド」のラベル、ル・クルーゼの鍋、不二家のファミリーマーク、ルックチョコレート、スチュードベーカー・アヴァンティなどがあります。航空機関連ではユナイテッド航空やエールフランスのデザインも手がけています。

ローウィはデザインにおける哲学として、「MAYA」（Most Advanced Yet Acceptable、先進的ではあるがぎりぎり受け入れられる）という概念を提唱しました。これは、消費者の「新しいものへの憧れ」と「未知への不安」のバランスを考慮する必要性を示すものであり、彼のデザインにおける実践的なアプローチを反映しています。

1951年には自叙伝的な著書『口紅から機関車まで』を発表し、自身のデザイン哲学や仕事への取り組みを紹介しています。この本は、デザイン史における重要な文献の一つとして今も読み継がれています。

レイモンド・ローウィは、単なるデザイナーではなく、時代の変遷を的確にとらえ、機能性と美しさを両立させたデザインによって、20世紀の産業デザインに多大な貢献をした人物と言えるでしょう。彼のデザインは、現代のデザインにも大きな影響を与え続けています。

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