オースチン・アレグロ

アレグロ：ブリティッシュ・レイランドの苦難を象徴する小型車

アレグロは、イギリスの自動車メーカー、ブリティッシュ・レイランド（BL）が1973年から1983年にかけて製造した小型乗用車です。BLの前身であるBMCの成功作、オースチン・1100などADO16シリーズの後継モデルとして開発され、開発コードはADO67でした。

当初はイタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナにデザインを依頼する予定でしたが、最終的には社内デザイナー、ハリス・マンを中心としたデザイン案が採用されました。初期デザインはシャープな印象でしたが、量産段階でより丸みを帯びた形状に変更されています。

機構面では、エンジンはBL既存車からの流用でしたが、サスペンションには革新的な『ハイドラガス』方式を採用しました。これは、BMCのADO16シリーズに採用されていた『ハイドロラスティック』方式を進化させたもので、シトロエンのハイドロニューマティック方式に影響を受けています。前後サスペンションを連通させ、液体を循環させることで、車体の姿勢変化を抑制する仕組みです。シトロエン方式とは異なり、オイルではなくアルコール系の液体を使用し、窒素ガスによる加圧も行わない低圧循環システムを採用したため、車高調整機能はありませんでした。この簡素な機構により、優れた乗り心地と操縦性を両立することを目指していました。ステアリングは当初非円形でしたが、不評のため後に円形に変更されました。

1973年、石油危機直前に発売されたアレグロでしたが、市場での反応は芳しくありませんでした。その原因としては、デザインが不評だったこと、そして当時のイギリス経済状況（英国病）による労働争議の頻発が製造品質の低下を招いたことが挙げられます。雨漏りは深刻な問題で、カタログに掲載されたスクーバダイビングの写真は、その雨漏りを揶揄するジョークとして有名になりました。さらに、ハイドラガスサスペンションに使用されたアルコール系液体が金属を腐食させる問題も発生し、車体が傾くという現象も報告されています。

この頃、BLは市場シェアでフォードに抜かれ、国有化されるなど苦境に立たされましたが、アレグロは改良を重ねながら1982年まで生産されました。2ドアのエステートモデルや高級仕様の『バンデン・プラ1500/1800』といった派生モデルも登場しました。また、BL傘下のイタリアのイノチェンティ社からも『リージェント』として1973年から1975年にかけて生産されました。日本には正規輸入されませんでしたが、バンデン・プラ1500がごく少数、輸入販売された記録があります。

アレグロは、革新的な技術とデザインを採用しながらも、生産上の問題や市場の反応の悪さ、そして当時のイギリスの社会情勢といった様々な要因が絡み合い、成功を収めることができなかったモデルと言えます。その歴史は、当時のブリティッシュ・レイランドの苦難を象徴する一つの事例として、自動車史に刻まれています。

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