バリー・クーパー

バリー・クーパーは、1949年にイギリスで生まれた作曲家、オルガニスト、そして音楽学者です。彼は特にルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの研究者として国際的に広く知られています。

彼の音楽への道は幼い頃に始まり、ピアノと作曲を学びました。その後、ジョン・ウェブスターにオルガン演奏を師事しつつ、オックスフォード大学で勉学に励み、1974年に哲学博士号を取得しました。

クーパー氏のベートーヴェン研究における功績は多岐にわたりますが、最も注目を集めるのは、ベートーヴェンの未完の遺作とされる交響曲第10番の実用譜を再構築した試みです。彼は『ベートーヴェン・コンペンディアム』の編纂に携わるなど、ベートーヴェンに関する数多くの著作を発表しています。その中でも、ベートーヴェンの創作過程に関する深い洞察を示す著作『ベートーヴェンの創作過程』（Beethoven and the Creative Process）は重要です。この研究の過程で、彼はベートーヴェンが遺した膨大な数のスケッチ帳を徹底的に調査しました。交響曲第10番に関しても、未完成ながら各楽章の断片的なスケッチが確認されており、クーパー氏はこのスケッチを丹念に分析し、全体の構成を推定しました。その結果、これらの断片を統合して、演奏可能な形として交響曲第10番の実用譜を完成させたと発表しました。

この実用版の取り組みに対しては、学術的な正当性や完成度に関して様々な意見や批判も存在しますが、クーパー氏自身は自身の研究に基づいた確かな手応えを感じていたようです。最初に完成した実用版は、1988年にヴァルター・ヴェラーの指揮、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団によって初演されました。ベートーヴェンは生前、ロイヤル・フィルハーモニー協会に交響曲第10番を提出することを約束していたとされており、この初演はその約束をある意味で実現するものとも見なされました。その後、クーパー氏はさらに別のスケッチ帳から新たな素材を発見・分析し、最初の版に手を加えてより洗練された第2の実用版を完成させました。この第2版は、ウィン・モリス指揮、ロンドン交響楽団によって初演されています。

ベートーヴェン研究と並行して、クーパー氏は他の音楽史分野にも貢献しています。1974年から1990年までアバディーン大学で教鞭を執り、この間、17世紀フランスのクラヴサン音楽や18世紀イングランドの音楽理論に関する研究を行いました。1990年からはマンチェスター大学に移り、引き続き教壇に立ち、ベートーヴェンの後期作品や楽譜校訂といった専門的な分野の講義を担当しています。

学術研究に加え、作曲活動も続けており、オラトリオ《昇天》（The Ascension）などの作品を発表しています。バリー・クーパー氏は、ベートーヴェン研究における革新的な試みで広く知られる一方で、オルガニスト、作曲家、そして多様な音楽史分野の研究者としても多大な貢献を果たしている、現代イギリスを代表する音楽家、音楽学者の一人と言えるでしょう。

もう一度検索