ハルカラマツ

ハルカラマツ（春唐松）

ハルカラマツ（学名：Thalictrum baicalense）は、キンポウゲ科カラマツソウ属に分類される多年草です。別名ニッコウカラマツとも呼ばれています。

特徴

ハルカラマツは、根が肥大しないのが特徴です。茎は直立し、高さは50cmから100cm程度になります。上部でまばらに分枝し、茎や葉には毛がなく、腺毛も見られません。花期には根元の葉は枯れており、茎につく葉は互い違いに生えます。葉は2〜3回3出複葉で、小葉はくさび形や倒卵形をしており、先端は浅く3つに分かれています。葉の縁には鋸歯があり、葉柄の基部には暗褐色の膜状の托葉が見られます。上部の葉は小さくなり、時には柄がなくなることもあります。

花期は6月から7月にかけてで、花序は散房状に付き、直径8mmから10mm程度の白い花を咲かせます。花はわずかに黄色や緑色を帯びることもあります。萼片は花弁状で、黄白色の楕円形をしていますが、早落性です。花弁はなく、多数の雄蕊があります。雌蕊は4個から8個で、柱頭は円盤状になります。果実は球状楕円形の痩果で、縦に8本の稜があります。痩果には短い果柄があり、柱頭はわずかに内側に曲がっています。染色体数は2n=14です。

分布と生育環境

ハルカラマツは、日本では北海道と本州の一部（福島県、栃木県、群馬県、埼玉県）に分布しています。山地帯の湿った草地や林縁に生育します。国外では、朝鮮半島北部、中国東北部、シベリア東部にも分布しています。

名前について

和名の「ハルカラマツ」は「春唐松」を意味しますが、実際に春に花が咲くわけではありません。これは、同じカラマツソウ属の植物であるアキカラマツ（秋唐松）よりも早く花が咲くことに由来します。この名前は、植物学者の松村任三によって名付けられました。種小名の baicalense は、「バイカル湖地方の」という意味を持っています。

種の保全状況

ハルカラマツは、環境省レッドリストで絶滅危惧II類（VU）に指定されています。また、各都道府県でもレッドデータリストに指定されており、福島県では情報不足（DD）、栃木県では要注目、群馬県では準絶滅危惧（NT）と評価されています。

下位分類

マルミノハルカラマツ（学名：Thalictrum baicalense Turcz. ex Ledeb. f. levicarpum Tamura）は、痩果にある稜が目立たず、表面が滑らかなものを品種として区別します。タイプ標本は栃木県日光市で採集されました。

分類上の注意

ハルカラマツと似た種にカラマツソウ（Thalictrum aquilegiifolium var. intermedium）があります。これらの種は、共に北海道と本州に分布しますが、カラマツソウは西日本まで広く分布しています。一方、ハルカラマツは本州では限られた地域にしか見られません。栃木県日光市では両種が同じ場所に生育していますが、ハルカラマツの方が開花時期がやや早いです。托葉の形状や痩果の形状が両種を区別する上で重要となります。カラマツソウの托葉は縁が全縁であるのに対し、ハルカラマツの托葉は縁が不規則に切れ込んでいます。また、痩果の形状も異なり、カラマツソウは楕円形で多数の痩果が垂れ下がるのに対し、ハルカラマツは球状楕円形で少数の痩果が直立または斜上します。

参考文献

佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本II離弁花類』、1982年、平凡社
門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花（増補改訂新版）』、2013年、山と溪谷社
矢原徹一他監修『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ 増補改訂新版』、2015年、山と溪谷社
大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 2』、2016年、平凡社
牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」（YList）
日本のレッドデータ検索システム
松村任三、日本植物新稱, The botanical magazine,『植物学雑誌』,Vol.3, No.29, p.248, (1889).

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