ハルシュタット文化

ハルシュタット文化：ヨーロッパ鉄器時代の幕開け

ハルシュタット文化は、紀元前12世紀以降の中央ヨーロッパで栄えた、青銅器時代後期から鉄器時代初期（紀元前8世紀～紀元前6世紀）にかけて主流を占めた文化です。オーストリアのザルツカンマーグート地方にあるハルシュタット遺跡からその名が付けられ、後のラ・テーヌ文化へと発展的消滅しました。

ハルシュタット遺跡：発掘と発見

1846年、ヨハン・ゲオルク・ラムザウアーによるハルシュタット近郊での大規模な先史時代墓地の発見は、この文化研究の端緒となりました。1863年までに980体以上の遺体と19000点を超える埋葬品が発掘され、紀元前7～6世紀の豊かな文化像が明らかになりました。この墓地からは、特徴的な様式の副葬品が大量に出土し、その様式はヨーロッパ各地に広範囲に分布していたことが分かっています。ハルシュタット共同体は、この地域で古くから採掘されていた岩塩鉱山を基盤として繁栄していました。「halen」という古ケルト語が「塩」を意味するように、塩は当時重要な資源であり、交易においても重要な役割を果たしていたと考えられています。

ハルシュタット文化の時代区分

ハルシュタット文化は、考古学的にはA期からD期までの4期に区分されます。

ハルシュタットA期（紀元前1200～1000年）： ヴィラノヴァ文化の影響が見られます。
ハルシュタットB期（紀元前1000～800年）： 火葬が主流でしたが、墳墓葬も普及し始めました。
ハルシュタットC期（紀元前800～650年）： 初期鉄器時代と重なる時期で、狭義の「ハルシュタット時代」に含まれます。
ハルシュタットD期（紀元前650～475年）： ラ・テーヌ文化へと移行する時期です。

A期とB期は青銅器時代後期にあたり、C期とD期が鉄器時代初期に相当します。

ハルシュタット文化の地理的区分

1959年、コサックはハルシュタット文化圏を東西に二分する提唱を行いました。境界線は東経14～15度付近で、チェコとオーストリアを縦断しています。

西文化圏： フランス北西部、スイス高原、ドイツ南部、チェコ（ボヘミア）、オーストリア西部など。
東文化圏： オーストリア東部、チェコ東部、スロバキア、ハンガリー西部、クロアチアなど。

東西の文化圏の違いは、埋葬習慣や副葬品に顕著に表れます。西文化圏では剣や短剣が、東文化圏では斧が副葬品として多く見られます。また、西文化圏では戦車葬が、東文化圏では甲冑をつけた戦士の埋葬が見られるなど、地域差が明確です。

ハルシュタット文化の交易と文化交流

ハルシュタット文化は、広範囲にわたる交易と人口移動を通じて、イベリア半島、グレートブリテン島、アイルランド島などにも影響を与えました。ギリシャとの交易も盛んで、ハルシュタット後期の墓からはアッティカの黒絵式陶器が出土しています。これは、マルセイユを経由した輸入品と考えられています。琥珀、象牙、ワインなども輸入されたと考えられます。

定住地は、丘の上の要塞化された集落が多く、青銅器、銀器、金器などの工房も存在していました。ホイネブルク（ドイツ）、ラソワ山（フランス）、モルピール（スロバキア）などは、その代表的な例です。

ハルシュタット後期には、丘の上の定住地近くで、身分の高い人物の豪華な墓が発見されています。副葬品には、戦車、馬具、装飾品などが含まれ、ビチ・スカーラ（チェコ）、ヴィクス（フランス）、ホッホドルフ（ドイツ）などが有名です。

西文化圏の中心地は、安定した社会経済的基盤を持っていましたが、紀元前600年頃からは、マルセイユのギリシャ植民市設立やエトルリア文化の興隆などにより、交易が変化し、地方の首長が台頭するようになりました。これは、ラ・テーヌ文化にもつながる重要な変化です。

ハルシュタット文化は、ヨーロッパ鉄器時代の重要な文化であり、その後のヨーロッパ文化の発展に大きな影響を与えたと言えるでしょう。その広がり、交易、そして文化交流は、当時のヨーロッパ社会の複雑さとダイナミズムを物語っています。

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