ハロウィーン文書

ハロウィーン文書とは

ハロウィーン文書（The Halloween Documents）は、マイクロソフトの内部文書を基に、同社のオープンソースソフトウェア（OSS）、特にLinuxに対する戦略を暴露した文書群です。エリック・レイモンドによって公開され、マイクロソフトの対OSS戦略がFUD戦略や3E戦略に基づいていると告発しています。

文書の概要

文書は、マイクロソフトの内部資料、エリック・レイモンドの解説、マイクロソフトの公式コメントなどから構成されています。最初の文書が公開された時期がハロウィーンに近かったため、この名称がつけられました。ただし、全ての文書がハロウィーンに近い日付で公開されたわけではありません。

エリック・レイモンドの情報源

文書は複数の情報源から構成されています。マイクロソフトの内部資料（I、II、VII、VIII、X）は、本来企業秘密として扱われているもので、エリック・レイモンドが情報提供者を伏せてリークしました。その他の文書は、マイクロソフトの公式コメントや、エリック・レイモンドがニュース記事などで発表した応答コメントです。エリック・レイモンドは著作権侵害を避けるため、原文に補足や見解を加えて公開しました。

マイクロソフトの戦略

マイクロソフトのOSSおよびLinuxへの対抗戦略は、主に以下の3つに分類されます。

FUD戦略・3E戦略

存在しない製品の発表や、競合製品の悪評を広めるFUD（Fear, Uncertainty, and Doubt）戦略や、閉鎖的な規格でプラットフォームを囲い込む3E（Embrace, Extend, Extinguish）戦略です。これらの戦略は、OSS以前からマイクロソフトの企業戦略として存在しており、それをOSSやLinuxに適用したものです。しかし、これらの戦略は十分な評価を得られておらず、後に批判を控える、低いTCO（Total Cost of Ownership）を求めるという戦略も示されています。

シェアードソース戦略

マイクロソフト製品のソースコードを、競合しない学術機関や企業に公開する戦略です。これにより、製品の利用や学習を促進し、低いTCOをユーザーに提供しました。一部のライセンスはオープンソース・イニシアティブの公認を受け、OSS分野の開発者への認知活動も行われました。

第三者組織の支援戦略

第三者組織を支援し、マイクロソフトに有利な評価を発表させる戦略です。SCO-Linux論争では、SCOグループを支援し、Linuxの評価を低下させようとしました。これらの戦略を通じて、マイクロソフトは表に立たず、婉曲的にLinuxの優位性確保を試みました。

各文書の詳細

Halloween I・II

1998年8月にマイクロソフトのプログラムマネージャーであるビノード・バロポシルが作成した社内文書です。OSSのコンセプトや、マイクロソフト製品への影響について分析しています。また、Linuxの基本構成や、Unix、Windows NTとの関係についても述べられています。マイクロソフトが内部的にFUD戦略や3E戦略を認識・理解していたことが示されています。この文書は、Microsoft対Comes訴訟の証拠品としても提出されました。

Halloween III

1998年11月5日にMicrosoft Netherlandsから発表された声明です。I・IIに対するマイクロソフトの最初の公式な回答で、それらの文書が競合製品調査として日常的で適切なものであり、マイクロソフトの公式な立場ではないと述べられています。Linuxは脅威ではなく、知的財産権を侵害しない限り、長期的には成長しないだろうと述べられています。

Halloween IV

1999年10月にエリック・レイモンドが執筆した、マイクロソフトのOSS開発に対する認識を風刺した作品です。OSS開発をロビン・フッドの仲間たちに例え、マイクロソフトの認識のズレを批判しています。

Halloween V

1999年3月にエリック・レイモンドが述べた、マイクロソフトのLinuxに対するFUD戦略の解説です。マイクロソフトがLinuxをコンシューマーにとって価値が低いと示唆したことに対し、事実とは異なると批判しています。

Halloween VI

1999年10月31日にエリック・レイモンドが、マイクロソフトのLinuxへの戦略が、FUD戦略から第三者の評価に基づく批評戦略に移行していると指摘したものです。Mindcraft SoftwareやGartner Group, Inc.のWindowsとLinuxの比較評価が、マイクロソフトの対Linux戦略の一環であると述べています。

Halloween VII

2002年9月にマイクロソフトがドイツのベルリンオフィスで開いた社内のLinux戦略検討会議で用いられた内部文書です。OSS、Linux、シェアードソース、GPLについて考察しています。OSSとLinuxが支持されている理由として低いTCOを挙げ、シェアードソース戦略にも支持があると述べています。GPLに対する批判は戦略的に効果的ではないと指摘しています。

Halloween VIII

2002年11月25日にマイクロソフトの関連企業ゼネラルマネージャーに送信された政府のOSS採用に関する対応指示書です。

Halloween IX

2003年6月28日にエリック・レイモンドがまとめた、SCOグループの主張が誤っていることを主張した文書です。他のハロウィーン文書と異なり、マイクロソフトに関する言及はありません。

Halloween X

2003年10月12日付けのメール文書を紹介したもので、マイクロソフトからSCOグループに資金が流れていることを暴露しています。

Halloween XI

2004年1月22日にエリック・レイモンドが執筆した、マイクロソフトのGet the Factsキャンペーンに関するFUD戦略の解説です。マイクロソフトのFUD戦略が、直接的な批判から、婉曲的な立場からの批判に移行していると述べています。

まとめ

ハロウィーン文書は、マイクロソフトのOSSに対する戦略を内部文書から明らかにした貴重な資料です。マイクロソフトがどのような戦略を用いてOSSに対抗しようとしたのか、その詳細を知ることができます。また、文書はマイクロソフトがFUD戦略や3E戦略、シェアードソース戦略などをどのように展開したのかを具体的に示しており、企業戦略を分析する上で重要な資料となっています。

もう一度検索