3E戦略

3E戦略（Embrace, Extend, Extinguish）とは

3E戦略とは、マイクロソフトがその競争戦略として用いたとされる手法で、「取り込み（Embrace）、拡張（Extend）、抹殺（Extinguish）」の3つの段階から成り立っています。この戦略は、広く使われている標準技術を自社製品に取り込み、その後、独自の機能を追加して標準を拡張し、最終的には競合他社を市場から排除することを目的とします。この戦略は、マイクロソフトが市場を独占するために使用したと批判されることがあります。

起源

3E戦略という言葉は、マイクロソフト社内で使用されていた「Embrace, extend and extinguish」というフレーズが、アメリカ合衆国司法省によって発見されたことに端を発します。このフレーズは、マイクロソフトが競合他社をどのようにして排除しようとしているかを示すものとして、注目を集めました。

1996年、ニューヨーク・タイムズの記事「Microsoft Trying to Dominate the Internet」で、この戦略と「embrace and extend」という言葉が初めて社外で解説されました。記事は、マイクロソフトが単にインターネットを取り込むだけでなく、それを飲み込もうとしているのではないかという懸念を示しました。

その後、マイクロソフトが反トラスト法違反で訴えられた法廷で、インテルの副社長スティーブン・マクゲーディーが、1995年のマイクロソフトとの会議でポール・マリッツが競合に対する戦略を説明する際に「embrace, extend and extinguish」という言葉を使ったと証言しました。

また、初期の段階では、「embrace, extend then innovate」という言葉も使われていました。これは、マイクロソフトのJ・アラーが、インターネットにおけるWindowsの可能性を探る中で、提案した戦略でした。

3E戦略の各段階

1. 取り込む (Embrace): 競合する製品と互換性のあるソフトウェアを開発するか、公開されている標準を実装したソフトウェアを開発します。この段階では、表面的には標準に準拠しているように見えます。

2. 拡張する (Extend): 競合製品や標準にはない独自の機能を追加・推進します。これにより、顧客が本来の標準を使用しようとした際に、相互運用性の問題が発生し、マイクロソフト製品への依存を強めます。

3. 抹殺する (Extinguish): 市場を独占することで、拡張された部分が事実上の標準となり、競合他社は新たな拡張に対応できず、市場から締め出されます。

批判と論争

アメリカ合衆国司法省やマイクロソフトを批判する人々は、この3E戦略が製品カテゴリの独占につながると指摘しています。この戦略は、J・アラーが提案した「embrace, extend then innovate」とは異なり、反競争的な側面を持つと批判されています。

マイクロソフトは、この戦略を、顧客が望む機能を実装する自由裁量権の行使であると主張しています。

具体例

ブラウザの非互換性: マイクロソフトがInternet ExplorerにActiveXサポートを追加したことで、Javaベースのコンポーネントを使用するNetscape Navigatorとの間で非互換性が生じました。
Javaの移植性の破壊: マイクロソフトがJavaプラットフォームの実装からJava Native Interfaceを除外したことで、Windows上のJavaプログラムが他のプラットフォームで使用できなくなりました。
ネットワーク: Windows 2000に実装されたケルベロス認証プロトコルの独自拡張により、マイクロソフト製品以外のアクセスが困難になりました。
インスタントメッセージ: CNETのNews.comでは、マイクロソフトのインスタントメッセージにおける3E戦略の例が解説されました。
アドビの懸念: アドビシステムズは、マイクロソフトのMicrosoft OfficeでのPDFサポート組み込みの要望を拒否しました。これは、アドビが3E戦略の餌食になることを恐れたためとされています。
従業員の証言: 2007年、マイクロソフトの従業員ロナルド・アレピンは、裁判でマイクロソフトの内部メールにあった「Embrace, Extend, Extinguish」というフレーズについて証言しました。
さらなるブラウザ非互換: Netscape関連の反トラスト法裁判から約10年後、オペラ・ソフトウェアが欧州連合と共にマイクロソフトを反トラスト法違反で訴え、3E戦略による標準の窒息を批判しました。
ODFスプレッドシートとの非互換: マイクロソフトはOffice 2007 SP2でODFをサポートしましたが、Excelが生成したファイルが他のアプリケーションとの間で相互運用できないという問題が指摘されました。

マイクロソフト以外の企業での例

ブラウザ戦争において、マイクロソフト以外の企業も標準との互換性のない独自の拡張を導入したことがあります。例えば、NetscapeはHTMLの拡張として「font」タグを導入しましたが、標準化団体にレビューを求めることはありませんでした。これらの事例は、3E戦略がマイクロソフト特有のものではないことを示唆しています。

標準化の重要性

ブラウザ戦争の繰り返しを防ぎ、標準の衝突を解決するため、Apple、Mozilla Foundation、Operaは、オープンな標準を策定するWeb Hypertext Application Technology Working Groupを設立しました。マイクロソフトは、このグループが特許の取り扱いを決定していないことを理由に参加していません。

結論

3E戦略は、マイクロソフトが市場を拡大する上で大きな役割を果たしたと考えられますが、同時に反競争的な側面を持つと批判されています。この戦略は、標準技術の発展と市場の公正な競争にとって、重要な問題提起となっています。

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