ハンガリー評議会共和国

ハンガリー社会主義連邦ソビエト共和国：短命に終わった共産主義国家の軌跡

1919年3月21日から8月6日まで、ハンガリーに存在したハンガリー社会主義連邦ソビエト共和国。わずか4ヶ月という短い期間であったにもかかわらず、その歴史は第一次世界大戦後のヨーロッパ、ひいては世界史に大きな影響を与えました。本稿では、この短命に終わった共産主義国家の成立から崩壊までの過程を、詳細に検討します。

成立の背景：混乱期のハンガリー

第一次世界大戦の終結後、オーストリア＝ハンガリー帝国は崩壊。新たに誕生したハンガリー民主共和国は、カーロイ・ミハーイ大統領のもと、社会・経済的混乱に陥っていました。この混乱を背景に、急速に勢力を拡大したハンガリー共産党が、革命を起こします。

ハンガリー共産党は、1918年11月にモスクワで結成された小規模な組織でしたが、クン・ベーラを指導者として、精力的な活動を通じて支持者を拡大。労働者、知識人、少数民族など、社会の様々な層に支持を広げました。彼らは「赤い新聞」などのメディアを通じて、既存政府を批判、国民の不満を巧みに利用し、社会民主党との連携を深めました。

1919年3月20日、カーロイ大統領が辞任すると、社会民主党と共産党が合流し、革命統治評議会を樹立。翌21日、ハンガリー社会主義連邦ソビエト共和国が宣言されました。「社会主義連邦ソビエト共和国」という国名は、周辺諸民族との連邦国家構想を示唆するものでしたが、実際には労働者評議会（ソビエト）は直接政権に関与していませんでした。

国内政策：急進的な改革と赤色テロ

新政府は、レーニン政権をモデルに、貴族特権廃止、政教分離、8時間労働制、男女平等賃金などの政策を打ち出しました。しかし、これらの政策は十分に実行されず、一方で急進的な国有化政策が推進されました。工業、商業、銀行、土地など、多くの資産が国有化され、経済は混乱を極めました。

また、新政府は「革命的テロ」を正当化し、赤色テロが展開されます。クン率いる政府は「反革命」分子への弾圧を激化させ、チェルニ・ヨージェフ率いるレーニン少年隊などが、数多くの殺害、弾圧を行いました。裁判を経ない処刑も多数行われ、民衆の反発を招く結果となりました。

外交政策：周辺国との紛争

ハンガリー社会主義連邦ソビエト共和国は、領土回復を掲げ、周辺国と軍事衝突を繰り返しました。ルーマニアとの戦争では敗北、チェコスロバキアへの進攻において一時的に領土を拡大するも、その後撤退。これらの軍事的な失敗は、国民の支持を失う大きな要因となりました。

崩壊：ルーマニア軍の進攻と白色テロ

軍事的な敗北と赤色テロによる国民の反発、そして政府内部の対立は、ハンガリーの共産主義政権の崩壊を招きました。1919年7月末、ルーマニア軍はハンガリー赤軍を撃破し、ブダペストへ進攻を開始。8月1日、クンらはオーストリアへ亡命しました。8月6日、ルーマニア軍がブダペストを占領し、ハンガリー社会主義連邦ソビエト共和国は崩壊しました。

ハンガリー社会主義連邦ソビエト共和国の崩壊後、保守派が政権を掌握し、白色テロが開始されます。共産主義者、左派、ユダヤ人が弾圧され、多くの犠牲者が出ました。

歴史的意義

ハンガリー社会主義連邦ソビエト共和国は、ロシア革命後、ヨーロッパで初めて成立した共産主義国家であり、ボリシェヴィキによるヨーロッパ革命輸出の試みの一つでした。しかし、わずか4ヶ月で崩壊したその歴史は、共産主義革命がヨーロッパに広がることの難しさを示す、象徴的な事例と言えます。また、赤色テロと白色テロは、革命の過程における暴力と弾圧の恐ろしさを改めて示すものでもあります。

参考文献

György Borsányi (1993). The life of a communist revolutionary, Béla Kun.
Janos, Andrew C.; Slottman, William (editors) (1971). Revolution in perspective: essays on the Hungarian Soviet Republic of 1919.
* その他多数（原文参照）

もう一度検索