ハンス・デルブリュック
ハンス・デルブリュック（Hans Delbrück, 1848年11月11日 - 1929年7月14日）は、ドイツの歴史家、政治家であり、特に軍事史研究において重要な業績を残しました。生物物理学者でノーベル賞受賞者であるマックス・デルブリュックの父としても知られています。
デルブリュックは、リューゲン島のベルゲンで生まれました。兄弟には、エルンスト・デルブリュックと化学者のマックス・デルブリュックがいます。彼は、ハイデルベルク大学とボン大学で学び、その後、ドイツ皇帝家のある王子の後見教育役を数年間務めました。その後、志願兵として普仏戦争に従軍しました。1885年にはベルリン大学の教授（現代史）に就任し、1884年から1890年までドイツ帝国議会議員を務めました。第一次世界大戦終結後には、ベルサイユ会議のドイツ代表団の一員として参加しました。彼はベルリンで生涯を終えました。
デルブリュックの主な研究テーマは戦争術の歴史であり、その主著は『政治史の枠組における戦争術の歴史』（Geschichte der Kriegskunst im Rahmen der politischen Geschichte, 全4巻）です。この著作は、古代から近世までの戦争術を政治史的な視点から分析したもので、彼の軍事史研究における重要な貢献とされています。その他にも、『ペルシア戦争とブルグント戦争』（Die Perserkriege und die Burgunderkriege）、『フリードリヒ大王の戦略に見るペリクレスの戦略』（Die Strategie des Perikles erläutert durch die Strategie Friedrichs des Grossen）、『伯爵グナイゼナウ元帥の生涯』（Das Leben des Feldmarschalls Grafen Neithardt von Gneisenau）などの著作があります。
デルブリュックは、現代軍事史家の草分けの一人として評価されています。彼の研究手法は、以下の点で特徴的です。
古代史料の批判的検討: 古代の文献を鵜呑みにせず、批判的な視点から検証を行いました。
周辺学問の活用: 人口学、経済学などの周辺学問を軍事史研究に取り入れ、分析を深化させました。
時代間の比較: 各時代の軍事機構を比較し、その進歩を追跡しました。
特に古代戦に関する彼の結論は、従来の説を覆すものでした。彼は、古代の軍に関する数字が誇張されていることを指摘し、戦闘の勝者は通常、敗者よりも兵力が大きかったことを明らかにしました。また、マラトン、ガウガメラ、ザマなどの有名な戦闘について、全く新しい解釈を提示しました。彼は、ローマ軍の優位性は規律や高度な戦術だけでなく、兵站上の支援に負うところが大きいと主張しました。つまり、ローマ軍は大規模な軍隊を戦場に送り込み、維持する能力が高かったということです。
中世の戦争に関するデルブリュックの説は、やや議論の余地があります。彼は騎士と騎兵を区別し、中世の戦士は個別に戦うだけで、戦術的な部隊を形成できなかったとしました。しかし、この説は後の研究者によって反論されています。
近世の戦争に関するデルブリュックの説には、クラウゼヴィッツの影響が見られます。彼は、戦争における戦略を「消耗戦略」と「殲滅戦略」の二つに分類しました。そして、どちらの戦略を選ぶかは、兵力の相対的な比較や、政治的、経済的な制約によって決定されるとしました。彼は、フリードリヒ大王の戦争を分析し、プロイセンが兵力的に劣勢であったため、消耗戦の戦略を取ったと結論づけました。しかし、この分析ではスペインの戦争が考慮されておらず、批判的な側面もあります。
デルブリュックは、第一次世界大戦におけるドイツの戦略を批判しました。彼は、ドイツが東部戦線での勝利を目指し、西部戦線では限定的な目標を設定し、講和を求めるべきだったと主張しました。これは、軍事的な行動と政治的な目標を統合すべきだという、彼の一般的な原則の実例です。
デルブリュックの研究は、軍事史を一般的な歴史の枠組みの中で捉えようとしたものであり、戦争を社会の文化的な特徴の一つとして、経済や政治システムの影響を受けながら発展するものとして捉えました。彼の著作は長らく英語に翻訳されなかったため、英語圏の専門家にはクラウゼヴィッツほどの評価は得られていませんが、軍事史研究において重要な役割を果たしています。
軍事学
軍事戦略
（このセクションは、原文に脚注がないため、省略します）
Delbrück, Hans (1920): History of the Art of War, University of Nebraska Press; Reprint edition, 1990. Translated by Walter, J. Renfroe. 4 Volumes.
Bucholz, Arden (1985): Hans Delbrück and the German Military Establishment: War Images in Conflict, University of Iowa Press.
Bucholz, Arden (1993): Hans Delbruck and Modern Military History - German Military Historian. Historian, Spring.
川村康之『日本とドイツの軍事思想比較 ―統帥権独立の影響―』 - 「2 ドイツにおける軍事思想の形成と発展」
『戦略論大系 12 デルブリュック』戦略研究学会編、小堤盾訳・解説、芙蓉書房出版、2008年
『政治史的枠組みの中における戦争術の歴史』抄訳、『モルトケ』全訳、『ルーデンドルフの自画像』抄訳
『政治史の枠組における戦争術の歴史』のドイツ語原文
生涯
デルブリュックは、リューゲン島のベルゲンで生まれました。兄弟には、エルンスト・デルブリュックと化学者のマックス・デルブリュックがいます。彼は、ハイデルベルク大学とボン大学で学び、その後、ドイツ皇帝家のある王子の後見教育役を数年間務めました。その後、志願兵として普仏戦争に従軍しました。1885年にはベルリン大学の教授（現代史）に就任し、1884年から1890年までドイツ帝国議会議員を務めました。第一次世界大戦終結後には、ベルサイユ会議のドイツ代表団の一員として参加しました。彼はベルリンで生涯を終えました。
業績
デルブリュックの主な研究テーマは戦争術の歴史であり、その主著は『政治史の枠組における戦争術の歴史』（Geschichte der Kriegskunst im Rahmen der politischen Geschichte, 全4巻）です。この著作は、古代から近世までの戦争術を政治史的な視点から分析したもので、彼の軍事史研究における重要な貢献とされています。その他にも、『ペルシア戦争とブルグント戦争』（Die Perserkriege und die Burgunderkriege）、『フリードリヒ大王の戦略に見るペリクレスの戦略』（Die Strategie des Perikles erläutert durch die Strategie Friedrichs des Grossen）、『伯爵グナイゼナウ元帥の生涯』（Das Leben des Feldmarschalls Grafen Neithardt von Gneisenau）などの著作があります。
デルブリュックは、現代軍事史家の草分けの一人として評価されています。彼の研究手法は、以下の点で特徴的です。
古代史料の批判的検討: 古代の文献を鵜呑みにせず、批判的な視点から検証を行いました。
周辺学問の活用: 人口学、経済学などの周辺学問を軍事史研究に取り入れ、分析を深化させました。
時代間の比較: 各時代の軍事機構を比較し、その進歩を追跡しました。
特に古代戦に関する彼の結論は、従来の説を覆すものでした。彼は、古代の軍に関する数字が誇張されていることを指摘し、戦闘の勝者は通常、敗者よりも兵力が大きかったことを明らかにしました。また、マラトン、ガウガメラ、ザマなどの有名な戦闘について、全く新しい解釈を提示しました。彼は、ローマ軍の優位性は規律や高度な戦術だけでなく、兵站上の支援に負うところが大きいと主張しました。つまり、ローマ軍は大規模な軍隊を戦場に送り込み、維持する能力が高かったということです。
中世の戦争に関するデルブリュックの説は、やや議論の余地があります。彼は騎士と騎兵を区別し、中世の戦士は個別に戦うだけで、戦術的な部隊を形成できなかったとしました。しかし、この説は後の研究者によって反論されています。
近世の戦争に関するデルブリュックの説には、クラウゼヴィッツの影響が見られます。彼は、戦争における戦略を「消耗戦略」と「殲滅戦略」の二つに分類しました。そして、どちらの戦略を選ぶかは、兵力の相対的な比較や、政治的、経済的な制約によって決定されるとしました。彼は、フリードリヒ大王の戦争を分析し、プロイセンが兵力的に劣勢であったため、消耗戦の戦略を取ったと結論づけました。しかし、この分析ではスペインの戦争が考慮されておらず、批判的な側面もあります。
デルブリュックは、第一次世界大戦におけるドイツの戦略を批判しました。彼は、ドイツが東部戦線での勝利を目指し、西部戦線では限定的な目標を設定し、講和を求めるべきだったと主張しました。これは、軍事的な行動と政治的な目標を統合すべきだという、彼の一般的な原則の実例です。
デルブリュックの研究は、軍事史を一般的な歴史の枠組みの中で捉えようとしたものであり、戦争を社会の文化的な特徴の一つとして、経済や政治システムの影響を受けながら発展するものとして捉えました。彼の著作は長らく英語に翻訳されなかったため、英語圏の専門家にはクラウゼヴィッツほどの評価は得られていませんが、軍事史研究において重要な役割を果たしています。
関連項目
軍事学
軍事戦略
脚注
（このセクションは、原文に脚注がないため、省略します）
参考文献
Delbrück, Hans (1920): History of the Art of War, University of Nebraska Press; Reprint edition, 1990. Translated by Walter, J. Renfroe. 4 Volumes.
Bucholz, Arden (1985): Hans Delbrück and the German Military Establishment: War Images in Conflict, University of Iowa Press.
Bucholz, Arden (1993): Hans Delbruck and Modern Military History - German Military Historian. Historian, Spring.
川村康之『日本とドイツの軍事思想比較 ―統帥権独立の影響―』 - 「2 ドイツにおける軍事思想の形成と発展」
『戦略論大系 12 デルブリュック』戦略研究学会編、小堤盾訳・解説、芙蓉書房出版、2008年
『政治史的枠組みの中における戦争術の歴史』抄訳、『モルトケ』全訳、『ルーデンドルフの自画像』抄訳
外部リンク
『政治史の枠組における戦争術の歴史』のドイツ語原文
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