ハンドルシステム

ハンドルシステムとは

ハンドルシステム（Handle System）は、デジタル情報資源をインターネット上で永続的に識別し、その情報を管理・解決するための技術フレームワークです。これは、資源そのものやその位置情報（URLなど）が変わっても、識別子自体は変わらない「永続的識別子」を実現する技術です。識別子はハンドルと呼ばれ、このハンドルを基に、資源の最新情報へと「名前解決」が行われます。

開発と概要

ハンドルシステムは、TCP/IPの共同開発者であるロバート・カーン氏によって、米国防高等研究計画局（DARPA）の支援のもと、Corporation for National Research Initiatives（CNRI）で開発されました。現在もCNRIが中心となり、開発と管理が進められています。このシステムは、デジタルオブジェクトをその属性（所在など）に依存するパケットとして扱うのではなく、独立した「第一級オブジェクト」として管理することを可能にします。

ハンドルシステムは、分散型のデジタルオブジェクトサービスのための広範な基盤として機能しますが、個別のアプリケーションとしても利用できます。スケーラブルな設計が採用されており、性能を落とすことなく膨大な数の資源を管理し、分散された最新の情報断片を解決できます。また、信頼性の高いアプリケーションを実現するための公開鍵基盤などのセキュリティ機能も備わっています。

名前解決の仕組み

「名前解決」とは、識別子を入力として、その識別子に関連付けられた最新情報（例えば所在を示すURL）を出力するプロセスです。これは、ドメイン名をIPアドレスに変換するDomain Name System（DNS）に似ていますが、ハンドルシステムはDNSとは異なる特徴を持ちます。

DNSとの違い: ハンドルシステムはDNSと連携して使用できますが、PURLsやARKsのようにドメイン名に依存する永続識別子とは異なり、必ずしもDNSを必要としません。また、ハンドルシステムでは、ハンドルごとに管理者を細かく設定でき、複数の管理者を割り当てることも可能です。さらに、拡張性の高い多様なデータ型をハンドルに関連付けられます。
所在と同一性の分離: インターネットにおいて、IPアドレスはしばしば資源の所在と同一性の両方を同時に表現してしまいます。これにより、資源の移動などが難しくなる問題があります。ハンドルシステムは、名前（同一性）と関連データ（所在を含む）を明確に分離することで、資源の移動性や現在のインターネットが抱える他の問題解決に寄与する設計思想に基づいています。

技術仕様

ハンドルシステムの技術仕様は、IETFのRFC 3650、3651、3652によって定義されています。これには、プロトコル、名前空間、関連する実装のオープンなセットが含まれます。ハンドルは、型付けされたデータを扱うことを志向しており、任意のUnicode文字を含む柔軟な構文を持ちます。

分散アーキテクチャ: システムは複数のローカル・ハンドルサービス（LHS）から構成されます。それぞれのLHSは、特定のハンドル情報を保管するサーバー群を提供します。すべてのハンドルの「名称典拠」（どのLHSが特定のハンドルプレフィックスを管理しているか）を格納する単一のGlobal Handle Registry（GHR）が存在します。ユーザーはまずGHRに問い合わせて、目的のハンドルがどのLHSに保管されているかを知り、そのLHSにアクセスして名前解決を行います（一度LHS情報が得られれば、以降のGHRへの問い合わせは省略できます）。
セキュリティ: ハンドルと値の関連付けは、データの検証のための署名や、送信者の検証のためのチャレンジ/レスポンス認証によって保護され、信頼性が確保されています。

ハンドルは、Uniform Resource Name（URN）やUniform Resource Identifier（URI）として表現・使用できます。Info URIの仕様であるRFC 4452の一部でもあります。また、HTTPプロキシサーバーを介してUniform Resource Locator（URL）としても表現可能です。

実装と応用

CNRIは、HANDLE.NET SoftwareやHANDLE.NET Client Librariesといった実装ツールを提供しており、これらはC言語やJavaで利用可能です。クライアントソフトウェアは、ウェブブラウザやサーバーソフトウェアに組み込むことができ、Adobe AcrobatやFirefoxなどの拡張機能としても提供されています。

ネットワーク: 分散されたハンドル解決サーバー群は、Global Resolverと呼ばれる論理的な単一エンティティ（物理的には分散・ミラーリングされている）を通じて相互接続されています。
非デジタル資源: ハンドルシステムは元々デジタルオブジェクトのために開発されましたが、非デジタル資源をデジタルオブジェクトとして表現し、ハンドルで識別することも可能です。この場合、FRBRやCIDOC CRM、indecs content model、SCORMといった既存のフレームワークと組み合わせて利用されることがあります。

ハンドルシステムは、永続性確保のための技術的基盤を提供しますが、その運用における組織的な取り組みの重要性も強調されています。永続性を保証するためには、技術だけでなく、適切なルールやコミュニティによるサポートが不可欠です。

設計思想

ハンドルシステムは、永続性を実現するために以下の要件を満たすよう設計されています。

識別子について: 所在や所有者など、変化しうる属性に依存しないこと。意図的に意味を持たせず、可能な限り「愚かな数字」であること。システム内でユニークであること。人間可読性やURI仕様への適合性などの補助的な機能を持ちうること。
名前解決メカニズムについて: 冗長性による単一障害点排除と十分な速度を持つ確実性。負荷増大に対応できるスケーラビリティ。環境変化に適応できる柔軟性。技術的信頼性確立と長期的な運用組織関与による信頼性。アプリケーション構築を促進するオープンなアーキテクチャ。ユーザーがインフラ詳細を知る必要のない透明性。

応用分野と普及

ハンドルは、論文、技術レポート、書籍、データセット、メタデータ、分散学習コンテンツなど、多様なデジタルオブジェクトの識別に利用されています。また、電子透かし、グリッドコンピューティング、リポジトリシステムなど、様々なアプリケーションで使用されています。多くのユーザーは、共同でポリシーを定めたり、追加技術を開発したりする連合体（Federation）を形成して利用しています。

ハンドルシステムは、公的機関、研究機関、大学図書館、政府機関、企業など、世界71ヶ国で数千のハンドルサービスが稼働しており、特に大学や図書館での利用が進んでいます。デジタルオブジェクト識別子（DOI）システムは、ハンドルシステムの代表的な実装の一つであり、主要な出版社がコンテンツの永続的識別子として広く採用しています。

プレフィックス（ハンドル名の先頭部分）の登録数も増加しており、GHRやプロキシサーバーへの名前解決リクエスト数も非常に多いことが、その活発な利用状況を示しています。

ライセンスと関連技術

ハンドルシステム、HANDLE.NET、Global Handle RegistryはCNRIの商標であり、特許の対象でもありますが、技術の普及を促進するため、オープンソースライセンスに類似したパブリックライセンスが付与されています。これにより、特許技術や実装ソフトウェアを低コストで商用・非商用問わず利用でき、他のシステムへの組み込みも可能です。

ハンドルシステムは、CNRIが進める長期的なデジタルオブジェクト・アーキテクチャの最初の要素として位置づけられています。このアーキテクチャには、他にデジタルオブジェクトリポジトリ（DO Repository）やデジタルオブジェクトレジストリ（DO Registry）といったコンポーネントがあり、これらもオープンソースライセンスで提供されています。ハンドルシステムはこれらのコンポーネントから独立して利用できますが、組み合わせて使うことでデジタル資源管理の枠組みをさらに強化できます。

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