ハンマリング・オン

ハンマリング・オンとは

弦楽器、特にフレットを持つギターやベースなどで広く用いられる演奏技法に、「ハンマリング・オン」（Hammering-On）があります。この技法は、通常のピッキングによって音を発するのではなく、すでに振動している、あるいはこれから発音させようとしている弦のフレット上を、別の指で打ち付けるように押さえることで、そのフレットで指定される音程を発音させるものです。別名「ハンマリング」と略されることもあります。

奏法の仕組みと効果

この奏法は、通常、あるフレットを押さえて発音させた後、その同じ弦の、より高いフレットを他の指で叩くように押さえることで行われます。例えば、ある弦の5フレットを人差し指で押さえピッキングして発音させた後に、薬指で同じ弦の7フレットを狙って強く、かつ正確に押さえる（叩く）と、ピッキングなしで7フレットの音を発音させることができます。この例では、音程が全音分上昇することになります。

この技法の最も一般的な目的は、音と音の間を滑らかにつなぐ「レガート」表現を実現することです。ピッキングを伴わないため、音の立ち上がりにアタックノイズが少なく、前の音から自然に次の音へと移行する効果が得られます。特に音程を段階的に上げていくフレーズにおいて、ハンマリング・オンを用いることで、流れるようなメロディラインを演奏することが可能になります。

ただし、ハンマリング・オンによって音を発音させるためには、ある程度の力と正確さが必要です。また、単に音を発音させるためだけにこの技法を用いる場合（レガートを目的としない場合）には、意図しない弦の振動や共鳴を防ぐために、演奏していない弦や、ハンマリングを行う弦のナット側をミュート（消音）する必要があります。これにより、ハンマリングした音だけをクリアに響かせることができます。

関連する技法

ハンマリング・オンは、弦楽器における重要な基礎技術であり、他の様々な応用技法とも密接に関連しています。

プリング・オフ (Pulling-Off)

ハンマリング・オンとは逆の動作で音を発音させる技法が「プリング・オフ」です。これは、押さえている指を弦から引き離す（プリング）ことによって、より低い音程（その指よりも低いフレットを押さえている指の音、あるいは開放弦の音）を発音させるものです。ハンマリング・オンが音程を上げるレガートに用いられるのに対し、プリング・オフは音程を下げるレガートに用いられます。これら二つの技法は対になっており、組み合わせて使われることが非常に多いです。

トリル (Trill)

ハンマリング・オンとプリング・オフを同じ二つの音の間で素早く交互に繰り返す技法を「トリル」と呼びます。これは主に装飾音として用いられ、短い音符で連続する音を表現する際に効果的です。

タッピング奏法 (Tapping)

ハンマリング・オンやプリング・オフを、通常弦を押さえる側の手だけでなく、ピッキングを行う側の手（一般的には右手）の指でも行う奏法を「タッピング奏法」と言います。これにより、両手の指をフレットボード上で自由に使い、広い音域にわたって非常に速く複雑なフレーズを演奏することが可能になります。

まとめ

ハンマリング・オンは、ピッキングに依存しない発音方法として、弦楽器の演奏において非常に有用な技術です。レガートなフレーズや速いパッセージの演奏を可能にし、音楽表現の幅を大きく広げます。プリング・オフをはじめとする関連技法と共に、現代の弦楽器演奏には欠かせない基本かつ応用性の高い奏法と言えるでしょう。

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