ハート形土偶

ハート形土偶：縄文時代の神秘的な美

ハート形土偶は、縄文時代後期に現在の関東地方および東北地方南部を中心に制作された土偶の一種です。その名の通り、顔面がハート形に見えることが最大の特徴で、愛らしい外見から多くの人々を魅了してきました。しかし、その造形に込められた意味や目的は、いまだ解明されていません。

ハート形土偶の概要

ハート形土偶は、縄文時代後期の前半に盛んに作られました。その特徴は、以下の3点に集約されます。

大きなハート形の顔: 顔の形は、完全なハート形に近いものから円形に近いものまで様々です。しかし、他の時代の土偶と比較して鼻筋が通っており、粘土を盛って短い沈線を引くことで目を表現している点は共通しています。
体の横に張り出した腕: 腕は、体の横に大きく張り出しているのが特徴です。この独特のポーズが、土偶に生命感を与えているとも言われています。
自立できるしっかりした足腰: ハート形土偶は、自立できる安定した足腰を持っています。これにより、土偶は単なるオブジェではなく、何らかの役割を担っていたと考えられています。

福島県では、板状土偶からハート形土偶が誕生し、それが山形土偶へと姿を変えていったと考えられています。土偶の進化の過程を辿る上でも、ハート形土偶は重要な位置を占めていると言えるでしょう。

郷原出土土偶

群馬県東吾妻町で発見された郷原出土土偶は、ハート形土偶の中でも特に有名なものです。この土偶は、第二次世界大戦中の1941年、郷原駅の建設工事中に発見されました。河原石で囲まれた墓のような遺構の中から、3つに割れた状態で出土しています。

高さ約30.5センチメートルのこの土偶は、女性像であると考えられており、妊娠線や産道が表現されています。その芸術性の高さは考古学界のみならず美術界でも高く評価され、1965年には重要文化財に指定されました。現在は個人が所蔵し、東京国立博物館に寄託されています。また、1981年には90円普通切手のデザインにも採用されました。

ハート形土偶のモチーフに関する諸説

ハート形土偶のモチーフについては、様々な説が提唱されています。

仮面説: ハート形の顔は、仮面をかぶった姿を表しているという説です。皿状の顔面を斜め上に向けている土偶の中には、仮面土偶と呼ばれる一群があり、ハート形土偶もその流れを汲むものと考えられています。
* オニグルミ説: 竹倉史人は、ハート形土偶のモチーフは食用植物であると主張し、オニグルミの断面とハート形土偶の形状が酷似していることを指摘しました。ハート形土偶が多く出土する阿武隈山地と会津盆地が、オニグルミの分布域であることも、この説を裏付ける根拠となっています。

これらの説に対し、石塚正英は土偶と大地は一体であり、自然を人に似せることで擬神化していると反論しています。

近年では、縄文時代の遺跡からクルミ形土器やクルミ形土製品が出土しており、自然の恵みに対する感謝や豊穣祈願のために製作されたとする説も有力です。

ハート形土偶は、岡本太郎の代表作である太陽の塔のルーツになったとも言われています。その独創的なフォルムは、現代アートにも影響を与えているのです。

ハート形土偶は、縄文人の精神世界を垣間見ることができる貴重な文化遺産です。その謎めいた魅力に触れることで、古代の人々の暮らしや信仰について、より深く理解することができるでしょう。

もう一度検索