普通切手

普通切手とは

普通切手は、郵便料金の納付を主な目的として発行される切手です。特定の行事やキャンペーンを記念して発行される記念切手とは異なり、様々な郵便料金に対応した額面が用意されています。世界で最初の切手であるペニー・ブラック（1840年発行）も、実は普通切手でした。

現在、日本では、葉書料金、定形封書料金、定形外封書料金、速達料金、簡易書留料金など、様々な郵便サービスに対応した普通切手が販売されています。

普通切手の特徴

普通切手には、製造枚数や発売期間に特に定めがありません。同じデザインの切手が、必要に応じて継続的に印刷され、半世紀近くもデザインが変更されないこともあります。しかし、料金改定などがあった場合には、短期間で販売が中止されることもあります。最終的には、デザインの変更や料金改定によって額面が不要となり、廃止されるまで販売されます。

日本では、製造を中止しても、在庫がなくなるまで販売されることが一般的です。ただし、インフレーションが進行すると、額面が無価値となり、事実上無効となることもあります。実際に、日本でも戦時中から戦後にかけてのインフレーションによって、銭単位の郵便切手が事実上廃止されました。

世界各国の普通切手

普通切手は、使いやすさを考慮して、創始以来、形状や大きさに大きな変化は見られません。しかし、初期の証票的なデザインから、絵画的なデザインへと変化する傾向があります。

君主国では、国家元首である国王の肖像が、すべての額面の普通切手に登場することがよくあります。例えば、イギリスのエリザベス2世や、スペインのフアン・カルロス1世の普通切手などがその例です。また、世界最初のペニー・ブラックをはじめ、その国で最初に発行された切手のデザインは、当時の君主の肖像であった例が多く見られます。

イギリスは世界で最初に切手を発行した国であるため、慣習的に切手に国名表記を入れない代わりに、すべての切手に国王の肖像またはシルエットを入れています（記念切手の場合）。イギリス連邦の構成国であるカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの切手にも同様の措置がとられていますが、国名表記がある点が異なります。

かつて大英帝国として世界各地に植民地を持っていたイギリスは、1930年代から1950年代にかけて、植民地用に記念切手並みのサイズの普通切手シリーズを発行していました。これらの切手は、アールヌーボー調の外枠デザインの中に国王の肖像を収め、その枠内に植民地の風景や文物を描いたもので、植民地領有を主張する手段としても用いられました。

共和国では、現職または歴代の大統領などの政治家の肖像が切手になることがあります。顕著な例としては、アメリカ合衆国が挙げられます。1866年には、死去間もないエイブラハム・リンカーン大統領が切手に登場しました。ただし、存命中の人物を図案化することは避けられています。アメリカ合衆国では、連邦法により、存命中の大統領および死後2年以内の大統領を図案に採用することは、貨幣も含めて禁止されています。そのため、1938年から1954年までアメリカで使用されていた、歴代大統領の肖像を図案とした普通切手では、発行当時（1938年）に存命だった人物は図案に採用されませんでした。一方で、サッダーム・フセイン時代のイラクなど、現職の国家元首の肖像が普通切手になっている国も少なくありません。

普通切手のデザインは、国によって様々です。国家元首を描く国などでは、すべて同じデザインの切手になることがありますが、その場合、額面だけでなく、刷色を変えることで区別しています。

その国を象徴する産業、風景、動植物、文化財などが普通切手の意匠になることも多く、一定のテーマを決めて発行することが一般的です。例えば、ドイツは花（以前は著名な女性や工業製品など）、中国では鳥類、香港では風景などがデザインされています。郵便切手の販売を国家歳入の重要な財源としている国では、5年程度で全ての額面の普通切手の意匠を一斉に改定することもあります。

日本における普通切手

日本では、世界的傾向とは異なり、現在のみならず歴代の天皇が切手になったことはありません。ただし、天皇の身代わりとして、明治から昭和にかけての高額普通切手には神功皇后の肖像が採用されていました。この傾向は、近代的な郵便制度が始まった明治時代から変わらないもので、明治天皇の意向が反映されていると言われています。明治初期に、紙幣と切手製造の基礎を構築したイタリア人技術者エドアルド・キヨッソーネは、日本も紙幣や切手に国家元首の肖像を使うのが妥当であると考えていました。しかし、明治天皇が生来の写真嫌いであったこともあり、拒否されたと言われています。天皇が神格化されたこともあって、天皇が切手に登場することはタブーとされるようになりました。

明治から昭和初期にかけては、証票的なデザインが採用されてきましたが、それ以降は徐々に具体的なモチーフが意匠とされることが多くなりました。

第二次世界大戦中には、逓信省も戦意高揚の一翼を担い、国家主義的、軍国主義的な色彩が濃くなりました。戦後は一転して、産業、風景、動植物、文化財などを意匠とするようになりました。

現在、日本郵便が発行する普通切手のテーマは「日本の自然」であり、日本国内に生息する鳥類や花、昆虫などがデザインされています。日本郵趣協会が発行する切手カタログでは「平成切手」という名称が使われており、切手収集家の間でも使用されています。

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