ハーバート・ユージーン・アイヴス

ハーバート・ユージーン・アイヴス：通信技術と相対性理論の狭間で

ハーバート・ユージーン・アイヴス (1882年-1953年) は、20世紀前半のアメリカを代表する科学者、エンジニアの一人です。AT&T に勤務し、ファックスやテレビジョンの開発に大きく貢献しました。特に、1938年のアイヴス＝スティルウェルの実験は有名ですが、その解釈をめぐって相対性理論を巡る議論の中心に立つこととなります。

華々しいキャリアと多様な才能

ペンシルバニア州フィラデルフィア生まれのアイヴスは、ペンシルバニア大学とジョンズ・ホプキンズ大学で学びました。1908年に卒業後、メーベル・ローレンツと結婚し、3人の子供をもうけます。

彼のキャリアは多岐に渡ります。航空写真に関する書籍を執筆し、アメリカ光学会の代表を務めるなど、光学分野での活躍が目立ちます。ベル研究所では電気光学研究の主任として、長距離テレビジョンやテレビ電話の開発を主導しました。

アイヴスはカラー写真の専門家でもあり、1924年にはルドルフ・ヴァレンティノを被写体としたカラーファックスの送信に成功しています。1927年には、当時の商務長官ハーバート・フーヴァーとのライブ映像中継を実現させ、185本の走査線を用いた長距離テレビジョン伝送の実演を行いました。その後も、テレビ電話システム「ikonophone」の開発など、現代の通信技術の礎となる研究を精力的に進めました。

さらに、彼はオートステレオスコピーによる3D画像表示技術の開発にも取り組み、多くの特許を取得しています。この技術は、レンチキュラーを使った3Dハガキなど、現代にも受け継がれています。

相対性理論との葛藤

アイヴスの名前が最も広く知られるのは、アイヴス＝スティルウェルの実験です。この実験は、特殊相対性理論における時間の遅れを直接的に示すものとして評価されています。しかし、アイヴス自身は、この実験結果をエーテルの存在の証拠と解釈し、特殊相対性理論を否定する立場を取りました。

著名な物理学者ハワード・ロバートソンは、アイヴスの研究を「奇妙で変則的」と評し、アイヴスの結論は表面上は相対性理論と矛盾しているものの、本質的には同じ理論に帰着すると指摘しています。アイヴスは、自身の解釈が正しく、相対性理論が誤りであると信じていたため、科学界の主流とは異なる道を歩むこととなりました。彼はその後も相対性理論に関する論文を発表し続け、独自の解釈を主張し続けました。

多彩な一面

科学者としての業績以外にも、アイヴスは熱心なコイン収集家としても知られており、アメリカ貨幣協会の代表を務めたこともあります。

1953年、ニュージャージー州アッパーモントクレアで死去しました。彼の業績は、現代の通信技術に多大な影響を与え続けています。数々の賞を受賞し、その功績は歴史に刻まれています。彼の研究は、相対性理論をめぐる議論に新たな視点を提示し続け、科学史に独特な位置づけを与えています。

もう一度検索