ハールートとマールート

ハールートとマールートの物語

ハールートとマールート（Harut wa Marut）は、コーランの第2章102節に登場する重要な天使の名前です。この節では、彼らの役割や人間への影響が描かれています。物語によると、ハールートとマールートは悪魔たちがスライマーン（ソロモン）の権威に従ったことから始まります。スライマーン自身は不信心ではありませんでしたが、悪魔が人々に魔術を教え、彼らの知識がバビロンで天使たちに授けられたと言われています。

両天使は「試みるだけだから、不信心になるな」と警告しつつ人々に教えを与えました。彼らが教えた内容には、夫婦間を引き離す術が含まれていました。しかし、重要なのは、アッラーの許しが無ければ誰に対しても害を及ぼすことはできなかったという点です。それにもかかわらず、人々は自らの不幸を招くことを学んでしまいました。ハールートとマールートの話は、自由意志がもたらす危険や、その選択の結果に対する警告として解釈されることがあります。

さらに、ユダヤ教とキリスト教においても、ハールートとマールートに関する伝説は存在します。初めは彼らも真面目な天使であり、肉欲や酒を貪る人間たちを見下していたとされています。しかし神から「お前たちも地上に行けばああなるかもしれない」と警告され、地上に降下しました。最初は強い意志で人間を観察していましたが、三日ほどで肉欲と酒に溺れてしまいました。

特に興味深いのは、彼らがとある美女に「秘密の名前」を教えてしまったというエピソードです。その美女はその魔力により天に昇り、金星と呼ばれる存在になりました。このことが神の怒りを買い、ハールートとマールートは髪の毛でバビロンの深い井戸に吊るされるという罰を受けることになるのです。

他の伝承では、この二人は地獄の番人の役割を果たすとも言われています。罪人に対して永遠の責め苦を与える役目を担う存在として描かれることもあるのです。

また、比較神話学者のジョルジュ・デュメジルは、ハールートとマールートの起源をゾロアスター教におけるハルワタートとアムルタートに求めています。彼らの物語は、信仰や道徳、自由意志についての深い考察を提供するものであり、イスラム教の文脈でも重要な教訓を含んでいます。

参考文献

• - 真野隆也『天使』 新紀元社、1995年、87頁。
• - 『悪魔事典』 新紀元社、2000年、220-221頁。
• - 日本ムスリム協会『日亜対訳・注解 聖クルアーン』1996年、18-19頁。

関連項目

• - イスラム教

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