ハ80 (エンジン)

ハ80ディーゼルエンジンについての詳細

ハ80は、第二次世界大戦の後期に三菱航空機が開発した航空機用のディーゼルエンジンです。このエンジンは陸海軍の統合名称で、海軍では「三菱研5号」、「陸軍」では「ハ300」、社内では「D4」と呼ばれていました。「D」はDieselの略称です。このエンジンの開発は、満州で生産されるフィッシャー油を使用した長距離爆撃機向けのエンジンとして始まりましたが、試作段階で戦局が厳しくなり、開発は中止されました。

開発の背景

三菱は、航空用ディーゼルエンジンに関する研究を1931年から行っており、アメリカのパッカード社の技術を借りた空冷星型9気筒4サイクルディーゼルエンジン（出力300馬力）の試作を行っています。東京大学航空研究所とも協力し、ディーゼルエンジンの開発を継続していました。

一方で、日本陸軍はドイツのユンカース G.38を基にした九二式重爆撃機を採用し、三菱にその生産を委託しました。その中で、第5号機と第6号機はユ式ユモ4型ディーゼルエンジンを搭載していました。三菱はこのエンジンの整備と試運転を行い、実機に搭載しましたが、1936年には陸軍の命により国産化を進めることになりました。この結果、社内呼称D3および陸軍呼称ハ22と名付けられた国産エンジンが完成し、1937年には陸軍の審査も通過しました。

その後、研究の結果、水冷式2サイクル対向ピストン型エンジンが航空機用として非常に適しているという結論が導かれました。1938年からは、この新しい形式に基づいた研究と開発が進められました。

ハ80の開発と特徴

1943年、満州産のフィッシャー油を使用した長距離爆撃機向けのエンジンの開発が、陸海軍から正式に指示されました。三菱は、8気筒直列エンジンを並列に配置することにより、16気筒のエンジンを設計することを決定しました。この取り組みは、三菱、海軍空技廠、および石川島航空工業の共同で進められましたが、戦況の悪化により試作機が完成する前に開発が中止されました。

技術仕様

ハ80は、水冷対向ピストン並列16気筒、2サイクルのディーゼルエンジンであり、以下のような特性があります。

• - ボア×ストローク：110mm×170mm
• - 排気量：51.7L
• - 乾燥重量：1,800kg
• - 過給機：排気タービン過給器

使用する燃料に関しては、以下の条件があります。

• - セタン価：離昇時80以上、それ以外は50以上
• - 凝固点：-40℃以上
• - 離昇馬力：3,000HP / 3,000RPM
• - 公称馬力：2,700HP / 2,800RPM
• - 常用馬力：2,400HP / 2,500RPM

以上のように、ハ80ディーゼルエンジンは、日本の航空機史における重要な技術的試みの一部であり、その開発の経緯は当時の航空技術を理解する上で興味深い事例となっています。

参考文献

松岡久光著『三菱 航空エンジン史 - 大正六年より昭和まで』（グランプリ出版、2017年8月、ISBN 978-4-87687-351-7）を参考にしています。

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