バイエルンの高地から

エドワード・エルガーの合唱と管弦楽のための作品『バイエルンの高地から』作品27は、しばしば『バイエルンの風景』とも称される、彼の初期の重要な作品群の一つです。

概要

この作品は、作曲家自身が1894年の秋に家族と共にドイツのオーバーバイエルン地方、特に風光明媚なガルミッシュで過ごした休暇の豊かな経験と感動から生まれました。バイエルンの壮大な自然や人々の陽気な暮らしに触れ、深い感銘を受けたエルガーは、その豊かな体験を音楽で表現しようと決意し、6つの合唱曲からなる作品集としてまとめ上げました。当初この曲集は『バイエルンの高地からの情景』（Scenes from the Bavarian Highlands）と名付けられています。

エルガーが作曲した音楽に、妻であるキャロライン・アリス・エルガーが詩を付けました。歌詞は「Volkslieder」（民謡）や「Schnadahüpfler」（跳躍を伴う歌や踊り）といったドイツの伝統的な民俗音楽の精神や言葉遣いに影響を受けており、全体が舞踊のリズムや精神を手本として書かれています。また、アリスは休暇中に実際に訪れたお気に入りの場所や風景を思い起こしながら、それぞれの楽曲に個性的な副題を与えました。これは、単なる情景描写にとどまらず、アリス自身の旅の個人的な思い出が反映されています。

この曲集は当初、ピアノ伴奏版として編曲され1895年に完成しましたが、翌1896年にはエルガー自身の手により管弦楽伴奏版が生まれました。作品は、一家がバイエルン滞在中に宿泊したガルミッシュの宿の経営者であったスリングスビー・ベセル夫妻に献呈されています。これは、彼らが滞在中に受けた温かいもてなしへの感謝を示すものです。

楽譜の出版には少々紆余曲折がありました。大手出版社のノヴェロ社が刊行を見送ったため、ジョゼフ・ウィリアムズ社から1895年12月に出版されることになりました。

作品の初演は1896年4月21日に行われ、作曲者自身が指揮を務め、ウスター音楽祭合唱協会の歌唱によって披露されました。

楽曲構成

全6曲は以下の通りです。各曲にはアリスによって付けられた副題（場所の名前など）が付いています。

1. The Dance (Sonnenbichl) - アレグレット・ジョコーソ
2. False Love (Wamberg) - アレグレット・マ・モデラート
3. Lullaby (In Hammersbach) - モデラート
4. Aspiration (Bei Sankt Anton) - アダージョ
5. On the Alm (True Love, Hoch Alp) - アレグロ・ピアチェーヴォレ
6. The Marksmen (Bei Murnau) - アレグロ・ヴィヴァーチェ

派生作品と演奏

この曲集の中から特に人気の高い3曲、すなわち第1曲「踊り（ゾンネンビッヒェル）」、第3曲「子守歌（イン・ハンマースバッハ）」、そして第6曲「射手（バイ・ムルナウ）」は、後にエルガー自身によって管弦楽のための組曲『3つのバイエルン舞曲』として編曲・出版され、オーケストラの演奏会で広く親しまれています。

現在でも、この合唱曲集は原典であるピアノ伴奏版と、より豊かな響きを持つ管弦楽伴奏版の双方で演奏・録音が行われており、エルガーの合唱作品の中でも特に魅力的で親しみやすい作品として知られています。

この作品は、バイエルン地方の美しい風景やそこに暮らす人々の温かさ、そしてエルガー夫妻の休暇中の楽しい思い出が音楽と詩によって見事に表現された、詩情豊かな合唱曲集と言えるでしょう。

もう一度検索