バイフューエル

バイフューエル（Bi-Fuel）

概要

バイフューエルとは、単一のエンジンシステムで性質の異なる2種類の燃料を状況に応じて切り替えて使用できる技術、またはその機能を備えた車両を指します。3種類以上の燃料を使用できるものは「マルチフューエル」と呼ばれ、主に軍用車両などで見られます。バイフューエル技術は、「1エンジン・2フュエルシステム」と称されることもあります。

この方式が最も普及しているのは、LPガス（液化石油ガス）や天然ガス（CNG：圧縮天然ガス）と、予備燃料としてのガソリンを組み合わせた車両です。ガス燃料の供給インフラが都市部以外ではまだ十分に整備されていない状況が多く、ガスが補給できない場合にガソリンで走行できる利便性が、この組み合わせが主流となっている大きな理由です。

世界的な普及と背景

世界的に見ると、バイフューエル車は特に欧州や北米のLPガス車に多く見られます。2005年時点で全世界に約900万台あったLPガス車は、2010年には1,580万台へと大きく増加しました。CNG車も同時期に約200万台から1,500万台に急増しています。これらの車両の大部分が、ガソリンを予備燃料として使用可能なバイフューエル車です。

ガス燃料車の多くが、既存のガソリン車をバイフューエル仕様に改造したものです。欧州では、カーオーディオを取り付けるような手軽さで改造が行えるディーラーも存在します。代替燃料としてのガス車は、燃料コストの低減や、ガソリン車と比較してクリーンな排出ガスといった利点があります。この環境性能の高さから、オランダ、フランスのパリ、イギリスのロンドンといった一部の都市では、排ガス規制による車両の走行制限の対象外となるなど、普及を後押ししています。しかし、長距離移動やインフラの少ない地域ではガス燃料の供給不安が伴うため、バイフューエルシステムは「燃料切れ」に対する心理的な不安を軽減し、利用者の安心感を高めるための重要な技術として考案されました。

量産化の動向

バイフューエル車をメーカーが量産する例は過去には少数でした。2004年時点では、スウェーデンのボルボが唯一本格的な量産メーカーとして知られ、LPガスおよびCNG仕様のセダンやワゴンを計8車種生産し、年間約2万台を供給していました。しかし、ボルボはその後、LPガス車の生産を2006年に、CNG車の生産を2009年に中止し、メーカー純正の後付けシステムへと戦略を転換しました。2000年以降は、インドのマルチ・スズキがワゴンRプラスにLPガス/CNGバージョンを設定・市販を開始。2010年代に入ると、韓国のキアが小型車「モーニング」でバイフューエル量産車市場に参入するなど、動きが見られます。

日本における状況

日本の自動車技術者の間には、単一エンジンで2種類の燃料に対応することは、それぞれの燃料の特性を十分に引き出せず、結果として不経済になるという見解を持つ者も少なくありませんでした。しかし、ボルボはオランダのNECAM社や日本のデンソーと共同でこの課題に取り組み、どちらの燃料を使用しても同等の出力と最大限の効率を発揮できるバイフューエルエンジンを開発し、量産販売に至りました。これらのエンジンは、厳しい排出ガス規制（EURO5相当）をクリアし、高い信頼性も備えていました。

日本国内では、LPガス車やCNG車の多くが既存車両を改造したバイフューエル仕様となっています。かつては新日本石油（現ENEOS）がオランダのヴィアーレ社のLPガス液体噴射方式「LPiシステム」を、田中モータースが独自の気体噴射システム「ELPIシステム」としてLPガスバイフューエル車を多数販売しました。CNG車では三菱自動車が販売実績を持っています。排出ガス規制の強化が進むにつれてバイフューエル化が進み、2010年時点ではLPガス改造車の約95%、CNG改造車の約70%がバイフューエル方式を採用していました。システムメーカーとしては、イタリアのランディレンゾ社が有名で、日本国内ではハナエンジニアリングジャパンやHKSなどがCNG関連システムを手掛けています。

また、産業車両であるフォークリフトにおいても、LPガス仕様を選択した場合に、LPガスとガソリンのバイフューエル車となるモデルが存在します。これは、プロパンガスが容易に入手できない緊急時などにガソリンで作業を継続できるようにするためです。

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