バシレイデース

バシレイデース（Bασιλειδης、85年頃 - 145年頃）は、初期グノーシス主義の重要な人物であり、バシレイデース派の祖として歴史に名を刻んでいます。彼はエジプトのアレクサンドリアに住んでいたことから、「アレクサンドリアのバシレイデース」とも呼ばれました。

バシレイデースに関する最も重要な情報源の一つは、2世紀のリヨン司教エイレナイオスが著した『異端反駁』（Adversus Haereses）です。この著作の中で、エイレナイオスはグノーシス主義を異端として批判的に取り上げていますが、その記述がバシレイデースの教えをどれほど正確に伝えているかは定かではありません。このため、バシレイデースの思想を正確に理解するためには、他の情報源や文脈を考慮する必要があります。

バシレイデースの弟子たちによって設立されたバシレイデース派は、アブラクサス（またはアブラサクス）という名の至高神を崇拝していました。アブラクサスは、グノーシス主義において、宇宙の根源的な原理、あるいは神的な存在として重要な位置を占めています。バシレイデース派の教義は、当時のキリスト教と深く関わりながらも、独自の世界観を形成していました。

カール・ユングとの関係

分析心理学の創始者であるカール・グスタフ・ユングも、バシレイデースの思想に深い関心を寄せていました。ユングは若き日に、人間の魂の意味を探求する中で、神秘主義的な思索を深めました。その思索の成果は、『赤の書』をはじめとする手稿に記録されています。また、ユングは『死者への七つの教説』という小冊子を限定出版し、親しい友人に配布しました。

この『死者への七つの教説』の中で、ユングは自身を「アレクサンドリアのバシリデス」と名乗り、バシレイデースの思想を借りて、独自の宗教観を展開しました。彼は、善の神「ヘーリオス」と悪の霊「サーターン」の二元論を提示し、さらに、両者の根源にある霊的な原理として「アブラクサス」を定義しました。ユングのアブラクサスは、善悪を超越した存在であり、両方の側面を併せ持つ「はたらき」として捉えられています。また、ユングはグノーシス主義における重要な概念であるプレロマ（プレーローマ）についても言及しており、彼の思想がグノーシス主義から強い影響を受けていることを示唆しています。

ユングがバシレイデースの思想に関心を抱いた背景には、グノーシス主義が持つ、人間の深層心理や精神的な探求を重視する姿勢があったと考えられます。ユングは、グノーシス主義の神話や象徴を、人間の無意識を理解するための手がかりとして捉え、自身の分析心理学に取り入れようとしました。このことから、ユングは単にバシレイデースの思想を研究するだけでなく、自らの思想を形成する上で、グノーシス主義を重要な参照点としていたことが伺えます。

関連項目

グノーシス主義
バシレイデース派
アブラクサス
カール・グスタフ・ユング

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