バスク人のディアスポラ

バスク人のディアスポラ：故郷を離れた人々の軌跡

バスク人のディアスポラとは、バスク地方を離れて世界各地に居住するバスク民族のことです。経済的、政治的な理由から多くのバスク人が故郷を離れ、新天地で新たな生活を築きました。彼らの足跡は、アルゼンチン、チリ、コロンビアなどの南米諸国をはじめ、北米、アジアにも及んでいます。

歴史的背景

バスク人は、伝統的に造船や航海技術に長けていました。また、バスク地方は鉄鉱石の産地であり、スペイン帝国の植民事業に多くのバスク人が参加しました。19世紀以降には、兵役を逃れるフランス領バスク人や、スペイン内戦から逃れるスペイン領バスク人にとって、南米のラプラタ川流域が主要な亡命先となりました。彼らは牧羊業を営み、ヨーロッパへの輸出で財を成し、政界に進出する者も現れました。

スペイン内戦中からフランコ独裁時代には、多くのバスク人が国外へ亡命し、その数は15万人以上とも言われています。ゲルニカ爆撃によって、多くのバスク人が南米への移住を検討しました。アルゼンチンはバスク人の入国を拒否しましたが、ウルグアイはバスク人を受け入れ、バスク自治政府首班にウルグアイ市民権を与えました。

1950年代には、オーストラリア北東部にバスク人が集団移住し、サトウキビ栽培に従事しました。また、アメリカ合衆国、中国、フィリピンなどにバスク・ペロタの競技者が集団渡航し、そのまま定着する者もいました。1970年代にスペインでフランコ独裁政権が崩壊すると、バスク地方の生活水準が向上し、海外移民は減少しました。

地域ごとのバスク人の足跡

南アメリカ

アルゼンチン: バスク系住民は人口の10%を占めると言われています。19世紀から20世紀にかけて、スペインとフランスから多くのバスク人が移住し、アルゼンチンの文化と政治に大きな影響を与えました。大統領を輩出し、地名や人名にもバスクの痕跡が見られます。
チリ: 18世紀に多くのバスク人が商人としてチリに到着し、社会階級の頂点に上り詰めました。彼らはチリのエリート層と婚姻関係を結び、今日のチリのエリート層の基礎を築きました。人口の10%から20%がバスク系であると推定されています。
コロンビア: 16世紀からバスク人移民が始まり、アンティオキア県住民の起業家精神や言語に影響を与えました。アンティオキア方言には、バスク語からの影響が見られます。
ウルグアイ: 人口の最大10%がバスク語の姓を持つと推定されています。19世紀前半には、モンテビデオだけで14,000人のバスク人がいたとされています。フアン・マリーア・ボルダベリーやホセ・ムヒカなど、ウルグアイ大統領となったバスク系人も多く存在します。
ベネズエラ: シモン・ボリバルは、ベネズエラに渡ったバスク人の家系です。ボリバルは南米大陸のアンデス5か国をスペインから独立に導き、「解放者」と呼ばれています。

北アメリカ

サンピエール島・ミクロン島: カナダのニューファンドランド島に隣接するフランスの海外準県であり、多くのバスク系住民が暮らしています。
メキシコ: バスク語の地名がメキシコ北東部に多く見られます。バスク系メキシコ人は、鉱業や牧畜業で重要な役割を果たしました。初代メキシコ皇帝アグスティン1世や、詩人フアナ・イネス・デ・ラ・クルスなどもバスクの家系です。
アメリカ合衆国: アイダホ州ボイシには、約15,000人のバスク系アメリカ人が居住しており、バスク博物館や文化センターがあります。ネバダ州リノには、バスク研究センターがあります。カリフォルニア・ゴールドラッシュを機にバスク人がアメリカ合衆国に移住し、牧場経営者や羊飼いとして活躍しました。

アジア

フィリピン: スペイン植民地時代にバスク人が移住し、兵士、商人、宣教師として活躍しました。アヤラ家やアラネタ家など、フィリピンの実業界や政治界で影響力を持つバスク系の家系も存在します。
日本: フランシスコ・ザビエルなど、アジア初のカトリック教会の宣教師にはバスク人が含まれていました。

バスク人のディアスポラをテーマにした作品

Gora Vasco! (2007年、ロベルト・アリスメンディ監督)
Amerikanuak (2010年、ゴルカ・ビルバオ監督、ナチョ・レイグ監督)
* Guk, we (2012年、ヌリア・ビラルタ監督)

バスク人のディアスポラは、故郷を離れた人々がそれぞれの土地で文化と伝統を受け継ぎ、新たな歴史を築いてきた証です。彼らの足跡は、世界各地に点在し、バスクの文化と精神を今に伝えています。

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