バッカス (レオナルド)

レオナルド・ダ・ヴィンチ工房作『バッカス』

『バッカス』、または『洗礼者聖ヨハネ』として知られるこの絵画は、16世紀初頭にレオナルド・ダ・ヴィンチの素描をもとに制作された油彩作品です。一般的に、ダ・ヴィンチの工房に所属していた匿名の画家によって描かれたと推測されています。現在はパリのルーヴル美術館に所蔵されており、その独特な歴史と芸術的特徴から、多くの美術愛好家を魅了しています。

作品の特徴

絵画は、牧歌的な風景の中に座る男性を描いています。彼は花輪を頭に戴き、ヒョウの皮を身にまとっています。右手を画面右方向に差し出し、左手にはテュルソス（ブドウの葉や蔓で飾られた杖）を持ち、大地を指しています。この絵はもともと洗礼者ヨハネを描いたものでしたが、17世紀後半に大幅な変更が加えられました。

1683年から1693年の間、絵は塗り直され、洗礼者ヨハネの姿はギリシア神話の酒神ディオニュソス（ローマ神話ではバッカス）へと変貌を遂げました。以前の状態の絵を見たカッシアーノ・ダル・ポッツォは、その姿が従来の洗礼者ヨハネの描写とは異なり、美しく、若々しく、やや両性具有的な雰囲気を帯びていたと述べています。この曖昧な官能性は、ルーヴル美術館所蔵の別の『洗礼者聖ヨハネ』にも見られる特徴で、レオナルド・ダ・ヴィンチ独特の発明と言えるでしょう。

塗り直しによって、洗礼者ヨハネが持っていた十字架のような杖は、バッカスの象徴であるテュルソスに、また、つる植物の花輪が加えられました。さらに、洗礼者ヨハネのローブは、バッカスに関連するヒョウの斑点で覆われました。これらの変更は、聖書の人物を異教の神へと転換させるものであり、作品の解釈に複雑な側面を加えています。

美術史家シドニー・ジョセフ・フリードバーグは、この絵画をレオナルド・ダ・ヴィンチの第2のミラノ時代に位置づけています。作品の制作者候補としては、チェザーレ・ダ・セスト、マルコ・ドッジョーノ、フランチェスコ・メルツィ、チェザーレ・ベルナッツァーノなどのロンバルディアの画家が挙げられています。

複製作品

レオナルド派の画家による複製はあまり知られていませんが、いくつか存在します。その一つに、スコットランド国立美術館に所蔵されているベルナルディーノ・ラニーノの『荒野の洗礼者聖ヨハネ』があります。この作品では、聖人が洞窟を背景に、高い岩、川、そして画面左には騎士、右には絞首刑に処された男が描かれています。また、15世紀から16世紀にかけて制作された別の複製が、アングル美術館に所蔵されています。2008年には、チェザーレ・ダ・セストの追随者による複製がクリスティーズのオークションに出品されました。

来歴

この絵画は17世紀にはフォンテーヌブロー宮殿にあったことが確認されています。おそらくフランス国王フランソワ1世の時代にフランス王室コレクションに加わったと考えられています。記録によれば、1683年にはフォンテーヌブロー宮殿で『荒野の聖ヨハネ』として、1693年にはムードン城で『バッカス』として目録に記載されています。この間、作品は聖ヨハネからバッカスへと変貌を遂げたことがわかります。

まとめ

『バッカス』は、レオナルド・ダ・ヴィンチの素描に基づき、その工房で制作されたとされる絵画です。元は洗礼者ヨハネを描いた作品でしたが、後に酒神バッカスへと変更されたというユニークな経緯を持っています。この作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチの芸術的な影響力と、時代による解釈の変化を物語る貴重な例と言えるでしょう。

参考資料

S.J. Freedberg, "A Recovered Work of Andrea del Sarto with Some Notes on a Leonardesque Connection" The Burlington Magazine 124 No. 950 (May 1982:266, 281–288)
Marilyn Aronberg Lavin, "Giovannino Battista: A Study in Renaissance Religious Symbolism" The Art Bulletin 37.2. (June 1955:85-101).
Musée du Louvre, Hommage à Léonard de Vinci 1952:34ff.
ルーヴル美術館公式サイト, レオナルド・ダ・ヴィンチの工房『洗礼者聖ヨハネ』

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