バッカスとアリアドネ

『バッカスとアリアドネ』

『バッカスとアリアドネ』（英: Bacchus and Ariadne）は、イタリアのルネサンス期の画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1520年から1523年にかけて制作した名画で、現在はロンドン・ナショナル・ギャラリーに収蔵されています。この作品は、古代ギリシャ神話の酒神バッカスとアリアドネの物語を描いたものであり、ティツィアーノがフェラーラ公爵アルフォンソ・デステのために制作した連作の一部を成しています。

作品の背景

この絵画はティツィアーノのバッカス祭シリーズの第2作目にあたります。最初の作品は『ヴィーナスへの奉献』（1519年）で、最終作は『アンドロス島の人々』（1523年-1524年頃）です。えこの連作は、公爵が彼自身の書斎「カメリーノ・ダラバストロ」に神話をテーマにした絵画を飾るための計画の一環として制作されました。

公爵は当初、ラファエロ・サンティに『バッカスの勝利』の制作を依頼しましたが、ラファエロが1520年に早逝したため、作品の完成はティツィアーノに引き継がれました。ティツィアーノは、既に存在したジョヴァンニ・ベリーニの『神々の祝祭』に手を加え、彼のバッカス祭の3連作と組み合わせる形で、全体的な調和を保ちました。

絵画の内容

『バッカスとアリアドネ』は、古代の詩人カトゥルスやオウィディウスの記述に基づいています。物語によれば、クレタ島の王女アリアドネはアテナイの王子テセウスに惹かれ、彼のミノタウロス討伐を手助けします。しかし、テセウスはアリアドネを見捨て、彼女はナクソス島に取り残されます。絶望している彼女の元に、バッカスが現れて彼女と結婚し、彼女の宝冠を空に投げることでかんむり座を創ります。

作品の構図では、既に出航したテセウスの船が小さく描かれ、アリアドネはその岸辺で驚きを隠せない様子でバッカスの一行を迎えます。バッカスは両足で戦車から飛び降り、アリアドネを助けるために前進している姿が印象的です。このとき、バッカスの戦車を牽くのはヒョウではなく、チーターとなっていますが、これはアルフォンソ公爵がチーターを所有していたためと考えられています。

また、アリアドネは既にかんむり座を頭上に持ち、彼女とバッカスの結婚を象徴する役割を果たしています。絵画は二つの大きな三角形によって構成されており、左側には青い穏やかな空が広がり、右側には取り巻きたちの賑やかな姿が描かれています。

修復の歴史

この作品は、過去に2回の丸められた保管を経て保存状態が悪化しました。19世紀末からは、絵画の色調を修復するために多数のメンテナンスが行われましたが、なかでも1967年から1968年の修復は特に問題視されます。この修復作業において、変色したワニスの除去中に多くの絵具が剥がれ落ち、元の色調と比べて平坦で淡い印象になったため、美術評論家たちから厳しい批判を受けました。この件に関して、ロンドン・ナショナル・ギャラリーは修復を行った理由を説明し、課題に対して反論しています。

大衆文化への影響

『バッカスとアリアドネ』は美術作品としてだけでなく、現代の大衆文化においても引用されています。例えば、カナダのフォーク・ロックグループであるクラッシュ・テスト・ダミーズのアルバム『God Shuffled His Feet』のカバーアートでは、メンバーの顔がこの絵の登場人物と置き換えられて使用されています。これにより、古典的な作品が現代の音楽シーンに結びつく一例となっています。

このように、ティツィアーノの『バッカスとアリアドネ』は、ただの美術作品としての価値だけでなく、歴史や文化に影響を与える重要な作品としても位置付けられています。

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