バックレス

エリック・クラプトン 『バックレス』

1978年に発表されたエリック・クラプトンのアルバム『バックレス』（Backless）は、前年にリリースされ大きな成功を収めた『スローハンド』に続く作品として制作されました。プロデュースは、前作でもクラプトンとの良好な連携を見せた名匠グリン・ジョンズが引き続き担当しています。このアルバムは、当時のクラプトンの充実した活動状況を示す一方で、長年彼を支えてきたバックバンドとの一つの時代の終焉を告げる作品としても重要な位置づけにあります。

アルバムからの先行シングルとして発表された「プロミセス」は、商業的にも大きな成功を収めました。全英シングルチャートで37位を記録したほか、特にアメリカではビルボード・ホット100で最高9位にランクインし、アルバムのセールスを強力に後押ししました。このヒットは、前作『スローハンド』で獲得した新たなファン層にしっかりとアピールできたことを示しています。

アルバム『バックレス』には、バラエティ豊かな楽曲が収録されています。クラプトンの自作曲に加え、ボブ・ディランとヘレナ・スプリングスによる共作「ウォーク・アウト・イン・ザ・レイン」や「イフ・アイ・ドント・ビー・ゼア・バイ・モーニング」、J.J.ケイル提供の「アイル・メイク・ラヴ・トゥ・ユー・エニイタイム」、そして広く知られるカントリー・ソング「タルサ・タイム」などが含まれています。これらの楽曲は、ブルースを基調としながらも、ポップス、カントリー、レゲエなど、当時のクラプトンの音楽的な関心の広がりを反映しており、聴きごたえのある内容となっています。

しかし、このアルバムを語る上で避けて通れないのが、レコーディングに参加したバンドメンバーの変遷です。1974年の活動再開以来、クラプトンと共に歩んできたレギュラー・バックバンドにとって、『バックレス』は最後のスタジオ・アルバムとなりました。本作の完成後、長年クラプトンのサウンドを支えたギタリストのジョージ・テリーとボーカリストのマーシー・レヴィがバンドを離れました。さらに、アルバム発表後の1979年に行われたアメリカ・ツアーの終了をもって、キーボードのディック・シムズ、ベースのカール・レイドル、ドラムのジェイミー・オルディカーといった、クラプトンの黄金期ともいえる時期を共に過ごした他のメンバーもバンドから脱退しました。このように、『バックレス』は、クラプトンの音楽キャリアにおける一つの重要な章が閉じられる直前の作品であり、その後のバンドメンバーの総入れ替えを予見させるような、ある種の時代の終わりを感じさせるアルバムと言えるかもしれません。

『バックレス』のレコーディングに参加した主なミュージシャンは以下の通りです。

エリック・クラプトン (Eric Clapton) - ギター、ボーカル
ディック・シムズ (Dick Sims) - キーボード
マーシー・レヴィ (Marcy Levy) - ボーカル
ジョージ・テリー (George Terry) - ギター
カール・レイドル (Carl Radle) - ベース、ボーカル
ジェイミー・オルディカー (Jamie Oldaker) - ドラム、パーカッション、ボーカル

さらに、「ゴールデン・リング」という楽曲には、スペシャル・ゲストとしてベニー・ギャラガーとグラハム・ライルがバック・ボーカルとして参加しています。

収録曲リスト

ウォーク・アウト・イン・ザ・レイン (Walk Out In The Rain) (Bob Dylan, Helena Springs)
ウォッチ・アウト・フォー・ルーシィ (Watch Out For Lucy) (Eric Clapton)
アイル・メイク・ラヴ・トゥ・ユー・エニイタイム (I'll Make Love To You Anytime) (J. J. Cale)
ロール・イット (Roll It) (Eric Clapton, Marcy Levy)
テル・ミー・ザット・ユー・ラヴ・ミー (Tell Me That You Love Me) (Eric Clapton)
イフ・アイ・ドント・ビー・ゼア・バイ・モーニング (If I Don't Be There By Morning) (B. Dylan, H. Springs)
アーリー・イン・ザ・モーニング (Early In the Morning) (Traditional)
プロミセス (Promises) (Richard Feldman, Roger Linn)
ゴールデン・リング (Golden Ring) (Eric Clapton)
タルサ・タイム (Tulsa Time) (Danny Flowers)

『バックレス』は、ヒット曲を生み出しつつも、長年を共にしたバンドメンバーとの別れを経験する直前に制作された作品として、エリック・クラプトンのディスコグラフィーの中でも特筆すべき一枚と言えるでしょう。

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