バットレスダム

バットレスダム：扶壁が支える独特な構造のダム

バットレスダムは、コンクリートの止水壁を、鉄筋コンクリート製の扶壁（バットレス）で支える形式のダムです。扶壁式ダムとも呼ばれます。

構造

複数の扶壁を連ね、上流側の遮水壁を扶壁が支えることで水圧に耐える構造をしています。扶壁は河床に垂直に立てられるほか、垂直扶壁を支えるための扶壁を水平に設置することもあります。そのため、外観は格子状になるのが特徴です。

バットレスダムには、アンバーセン式、フラットスラブ式、マルチプルアーチ式、コンティギュアス式（中空重力式コンクリートダム）の4種類があります。日本ではアンバーセン式が一般的ですが、海外ではアーチ型の扶壁を幾重にも重ねる形式も見られ、マルチプルアーチダムに類似した構造のものもあります。

堤体中央部に洪水吐を設けることが構造上難しいため、山腹を削って脇から洪水吐を建設し、貯水した湖水を放流します。この点はロックフィルダムと共通しています。

歴史

日本で最初に建設されたバットレスダムは、1918年に南樺太に造られた手井ダムです。本土では、1923年に函館市が建設した笹流ダムが最初です。

当時、セメントが高価だったため、電力会社はコンクリートの使用量を節約できるバットレスダムに注目し、建設が進められました。特に東京電燈（現・東京電力）が建設した丸沼ダムは、堤高と総貯水容量で日本一の規模を誇りました。

しかし、その後コンクリートが安価になり大量に使用できるようになったこと、扶壁の複雑な形状により型枠設計やメンテナンスにコストがかかること、地震に弱いことなどから、バットレスダムは大規模ダムの建設には不向きと判断されました。1937年に完成した三滝ダムを最後に、日本ではバットレスダムは建設されていません。

日本に現存するバットレスダム

日本国内には8基のバットレスダムが建設されましたが、現存するのは6基です。ほとんどが補強・改築されており、完成当時の姿を残しているものは多くありません。しかし、いずれも土木史的に貴重な建造物であるため、土木学会選奨の「土木遺産」に選定されています。

丸沼ダムは、完成当時の姿を残していること、堤高が日本一であることが評価され、2003年に電力会社管理ダムとして初めて国の重要文化財に指定されました。

笹流ダムを除くダムは、戦時中に国家による電力再編成の名の下で日本発送電株式会社に接収・管理され、戦後9電力会社に分配されるという歴史をたどっています。

その他のバットレス構造物

15m以下の小規模なダムとしては、父島にあるフラットスラブ式の境浦ダムがあります。また、愛媛県にある柿原第二貯水池堰堤は補助的にバットレスが付いており、岡山県にある奥津発電所貯水槽はバットレス構造となっています。大阪府にある泉南農業公園調整池は、スチールが遮水壁のバットレスダムです。

明治時代に苫小牧のパルプ工場に電力を供給するために建設された千歳第1ダムは、小堰堤ながら重力式コンクリートダムの特徴も兼ね備えており、「重力式バットレスダム」とも呼ばれます。

バットレスダムは、その独特な構造と歴史的背景から、土木遺産として貴重な存在です。現存するダムを訪れ、その魅力を体感してみてはいかがでしょうか。

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