バヤン (楽器)

バヤンについて

バヤンは、ロシアあるいはウクライナを起源とする鍵盤楽器であり、一般的には「ロシア式クロマティック・アコーディオン」とも称されます。かつては民族楽器としての性格が強かったものの、現代においてはその枠を超え、オーケストラの一員として、またクラシック音楽を演奏するための重要な楽器として位置づけられています。

この楽器は1907年にピョートル・ステリゴフによって考案されました。初期には、バラライカを中心としたアンサンブルの伴奏楽器として用いられていましたが、後にイタリア式のボタンクロマティック・アコーディオンの構造を参考に、抜本的な改良が施されました。その原型が完成したのは1929年のことです。その後もメーカーによっては、イタリア式の設計を超える独自の改良を加えたモデルが開発されています。

現代のバヤンは、ボタン式アコーディオンのために書かれたあらゆる楽曲を演奏する能力を持っています。このため、アコーディオンの国際コンクールなどでは、バヤン奏者が多数参加し、その高い演奏技術で優れた評価を獲得することが少なくありません。長年にわたりオーケストラの標準楽器の一つであったハーモニウムは、多くのメーカーの衰退とともにその地位を失い、アコーディオンがその役割を引き継ぐことになりました。これに伴い、バヤン奏者もオーケストラの重要な演奏者として扱われるようになり、現代の数多くの作曲家が、バヤンを含むアコーディオンのための新しい作品を発表しています。その代表的な例として、著名な作曲家ソフィア・グバイドゥーリナが挙げられます。バヤンの主要メーカーとしては、アッコ（Akko）、ジュピター（Jupiter）、トゥリスカヤ・ガルモニ（Tuljskaya Garmonj）などが有名です。

イタリア式のボタンクロマティック・アコーディオンと比較すると、バヤンにはいくつかの顕著な違いがあります。音を出すリードの形状や配置がわずかに異なり、アコーディオン特有のトレモロ効果を生み出すためのトレモロ・リードはバヤンには搭載されていません。また、右手のボタン配列がイタリア式とは異なる独自のものです。ロシア民謡の演奏に適しているという説も一部で唱えられていますが、これは一般的に認められている事実ではなく、俗説とされています。このような特性の違いから、ロシアやウクライナ以外の国では、音楽学校にバヤン専門の学科が少ない傾向が見られます。

音色を切り替えるレジスターの数にも違いがあります。イタリア式ボタンアコーディオンでは通常右手側に15個ですが、Akko社製のモデルには31個にまで増やされたタイプも存在します。多機能化されたモデルは16.5kgにも達することがあり、かつては立って演奏する奏者も見られましたが、現在では座って演奏するのが一般的となっています。

右手側のボタン列数も歴史的な変遷を経てきました。イタリア式が5列を標準とするのに対し、バヤンは2列から始まり、3列、4列、5列、そして最新のモデルでは6列へと増加しています。現在の主流は5列モデルですが、Akko社が新たに6列モデルを開発して以来、この新しいタイプに移行する奏者も見られるようになりました。5列式では同じ音を連続して演奏する際に指運びが制限される場合があるのに対し、6列式はどの位置でもスムーズな同音連打が可能となるように設計されています。この6列モデルでも重量は15.0kgに達します。

バヤン奏者には、技術の高さを披露する名人肌の人物が多く、街角の演奏者（ストリートミュージシャン）にとっても人気の高い、魅力的な楽器です。また、家庭的なコンサートなどでは、3台のバヤンが編成を組んで演奏会を行うのが一般的なスタイルとなっています。この3台編成は、楽器全体の音域が広がり、最大6声部まで自由に演奏できるため、ほとんどのクラシック音楽を効果的に編曲・演奏することが可能となります。初期のモデルにはボタンの中央に小さな穴が開けられているものも見られましたが、現代の製造ではこの特徴は廃止されています。

バヤンは、その独特の構造と豊かな表現力により、単なる民族楽器の枠を超え、現代の多様な音楽シーンにおいて重要な役割を担っている楽器と言えるでしょう。

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