バラン (電子工学)

バラン（Balun）とは

電子工学におけるバラン（balun）とは、平衡状態と不平衡状態の電気信号を相互に変換する素子です。例えば、同軸ケーブルのような不平衡回路と、2線フィーダーのような平衡回路を接続する際に用いられます。バランは、「balanced（平衡）」と「unbalanced（不平衡）」の頭文字を組み合わせた造語で、日本語では「平衡-不平衡変換器」と呼ばれます。

バランの主な用途

バランは、様々な電子機器やシステムで幅広く利用されています。以下に主な用途を挙げます。

アンテナ接続: テレビやアマチュア無線などのアンテナシステムでは、特性インピーダンスが異なる平衡型アンテナと不平衡型ケーブルを接続する際にバランが用いられます。例えば、300Ωのリボンフィーダー（平衡）と75Ω（または50Ω）の同軸ケーブル（不平衡）を接続する場合です。
携帯電話・Bluetooth・RFID: 平衡入出力を必要とする携帯電話、Bluetooth、RFIDなどのデバイスでは、不平衡デバイスや同軸ケーブルとの接続にバランが使われます。この用途では、チップバランと呼ばれる小型の表面実装部品がよく用いられます。
オーディオ機器: オーディオ機器では、高いインピーダンスの不平衡ラインを低いインピーダンスの平衡ラインに変換するためにバランが利用されます。これにより、ノイズの影響を低減し、より高品質な音声伝送が可能になります。
電力線搬送通信: 電力線搬送通信では、電力線と信号線を結合するためにバランが使われます。これにより、既存の電力線を通信回線として活用することができます。

バランの種類

バランには、その構造や機能によっていくつかの種類があります。ここでは、代表的なものとして強制バランとフロートバランについて解説します。

強制バラン

強制バランは、主に完全に平衡なアンテナを同軸ケーブルに接続するために用いられます。構造によって、さらに集中定数型と分布定数型に分類されます。

集中定数型: トランスの片側ポートをアースから浮かせて平衡回路に接続する構造です。トランスの機能を利用してインピーダンス比の変換を同時に行うことができます。電源は不要で、家庭用テレビ受像機やアンテナでは、300Ωのリボンフィーダーと75Ωの同軸ケーブルを整合させるために4:1のインピーダンス比を持つバランがよく使われます。このタイプでは、メガネコアと呼ばれる専用のコアに線を巻いたものが一般的です。
分布定数型: λ/2の分布定数線路を使って位相を反転させることで、不平衡を平衡に変換します。1:4のインピーダンス比を持ち、Uバランと呼ばれることもあります。

フロートバラン

フロートバランは、平衡性が崩れたアンテナや、地線が不完全なアンテナを同軸ケーブルに接続する際に用いられます。同軸ケーブルをコアに通してチョークコイルを形成し、同軸ケーブル表面を流れる電流を阻止します。これはアンテナ用のコモンモードフィルタとしても機能します。シュペルトップと呼ばれる構造もフロートバランの一種です。

バラン使用上の注意

ダイポールアンテナのように、理論上は完全に平衡なアンテナでも、実際には周囲の環境や障害物の影響を受けて完全な平衡状態にならないことがあります。そのため、強制バランを用いた不平衡変換が完璧には機能しない場合もあります。このような状況では、フロートバランを使用するなどの対策が必要になります。

関連項目

バランは、以下の技術分野と密接に関連しています。

インピーダンス整合: バランは、異なるインピーダンスを持つ回路を接続する際に、インピーダンスを整合させる役割を果たします。
マッチング (無線工学): 無線工学において、バランは、アンテナと送信機・受信機との間で効率的な電力伝送を行うために必要なマッチング回路の一部として機能します。
電波障害: バランは、不要な電波干渉（電波障害）を抑制するために用いられることがあります。
平衡接続: オーディオ機器においては、平衡接続を実現するための重要な要素です。
変圧器: バランは、電気的な構造として変圧器と類似しており、インピーダンス変換を行うことができます。
パッシブ型: バランは、能動的な電子部品ではなく、受動的な電子部品（パッシブ型）として機能します。

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