電力線搬送通信

電力線搬送通信：電力線を活用した通信技術

電力線搬送通信（PLC）は、既存の電力線を通信回線として利用する革新的な技術です。Power Line Communication、Power Line Telecommunication、Broadband Over Power Lineなど、様々な呼び名があります。PLCは、低周波数帯を用いた低速PLCと、高周波数帯を用いた高速PLCに大別されます。

低速PLCと高速PLC

低速PLCは、主に10kHzから450kHzの周波数帯を使用し、伝送速度は数kbpsから128kbps程度です。1987年には既に法制度が整備されており、比較的歴史の長い技術と言えます。

一方、高速PLCは2MHzから30MHzの周波数帯を使用し、伝送速度は大幅に向上します。高速PLCは、ブロードバンドインターネット接続の一環として2000年代初頭に注目を集め、総務省が研究会を開催するなど、盛んに研究開発が進められました。しかし、航空管制や短波放送など、既存の無線通信との干渉問題が課題となり、周波数帯の拡大は慎重に進められました。

高速PLCの実用化に向けた取り組み

高速PLCの実用化に向けては、総務省を中心に長年にわたる研究会や審議会が開催され、漏洩電磁波問題への対策や、既存無線通信との共存のための技術基準が策定されてきました。これらの努力の結果、2006年には屋内での2MHz～30MHz帯の使用が許可され、2013年には屋外利用（屋内配線と電気的に接続された屋外電力線に限る）も制度化されました。

変調方式とネットワーク構成

PLCでは、直交周波数分割多重方式（OFDM）やスペクトラム拡散変調方式（SS）といった変調方式が用いられています。ネットワーク構成は比較的シンプルで、PLCモデムをコンセントに接続するだけで簡単にネットワークを構築できます。

通信規格

日本国内では、HD-PLC、HomePlug AV、G.hnといった高速PLC通信規格が利用可能です。これらの規格は互換性がないため、同一電力線で混在させる場合は、各方式間の共存仕様に基づいた時間割当制御が必要となります。

利用形態と応用分野

初期にはブロードバンドインターネット接続への活用が期待されましたが、漏洩電磁波問題や既存ブロードバンド回線の普及により、その勢いは衰えました。現在、PLCは主に屋内でのホームネットワーク構築に利用されています。近年は、IoT（Internet of Things）時代の到来に伴い、ビルや工場における機器制御や監視用途など、産業分野への応用が注目を集めています。無線通信が遮蔽物に弱い点を補完する手段としても有効であり、特に有線配線が困難な既存設備への導入事例が増えています。

課題と問題点

PLCの技術的課題として、漏洩電磁波問題が最も深刻です。電力線は高周波信号の伝送を想定していないため、高周波信号を重畳すると電磁波が発生し、アマチュア無線や短波放送などに干渉する可能性があります。この問題を解決するため、漏洩電磁波低減技術の開発や許容値の策定、電波法に基づく規制が実施されています。しかし、一部では依然として漏洩電磁波による影響を懸念する声があり、論争が続いています。

その他、通信速度の低下、医療機器への影響、PLC同士の相互干渉など、いくつかの課題が指摘されています。これらの問題に対して、技術的な改善や、使用環境における注意喚起が重要です。

国際的な動向

欧米諸国では、PLC技術の普及が進んでいますが、漏洩電磁波対策や既存無線通信との共存を確保するため、それぞれの国で独自の規制や技術基準が策定されています。アメリカではFCC（連邦通信委員会）が、周波数帯域の拡大や機器認証、データベース登録など、独自の規制を設けています。欧州では、CISPR 32をベースにした許容値が設定されている一方、動的ノッチ制御技術などの導入が求められています。

まとめ

PLCは、既存インフラを活用できる利点があり、今後ますます重要性が増す技術です。しかし、漏洩電磁波問題など、克服すべき課題も残されています。技術開発の進展と、関係者間の適切な連携により、PLC技術はより安全で信頼性の高い通信手段として発展していくことが期待されます。

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