バランスト・スコアカード(BSC)とは
バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard, BSC)は、ロバート・S・キャプランとデビッド・ノートンによって提唱された、企業の業績を多角的に評価するための経営管理システムです。従来の財務指標中心の業績評価の欠点を補い、企業の戦略やビジョンを具体的な目標と行動に結びつけることを目的としています。
概要
BSCは、単なる業績評価ツールではなく、戦略的な経営システムとして位置づけられています。このシステムは、以下の4つの視点から企業の業績を評価します。
1.
財務の視点:株主や投資家などの利害関係者の期待に応えるため、財務的な成功をどのように達成するかを評価します。
2.
顧客の視点:企業のビジョンを達成するために、顧客に対してどのような価値を提供するかを評価します。
3.
業務プロセスの視点:財務目標を達成し、顧客満足度を向上させるために、どのような業務プロセスが必要かを評価します。
4.
学習と成長の視点:企業のビジョンを達成するために、組織や個人の能力をどのように向上させるかを評価します。
BSCは、これらの視点を相互に関連付け、バランスの取れた業績評価を実現します。各視点には、具体的な目標、評価指標、ターゲット、具体的なプログラムが設定されます。
BSCの発展
BSCは、当初は組織の業績を評価するレポートとして登場しましたが、その後、経営者情報システムとして発展しました。キャプランとノートンの最新の著作では、戦略的経営システムとして位置づけられています。
初期のBSCは、4つの視点から評価尺度を選択するものでしたが、その評価尺度の妥当性が問題視されました。その後、戦略目標に基づいて評価尺度を選択する手法が開発され、より実効的なシステムとなりました。この改善により、BSCは単なる評価ツールから、戦略実行のためのツールへと進化しました。
BSCの実装プロセス
BSCの実装は、以下の4つのプロセスで構成されます。
1.
ビジョンを目標に翻訳する:企業のビジョンを具体的な目標に落とし込みます。
2.
ビジョンを共有する:目標を組織全体で共有し、個々の業績と結びつけます。
3.
ビジネス計画を立案する:目標達成のための具体的な計画を立てます。
4.
フィードバックと学習:計画の実行状況を評価し、必要に応じて戦略を修正します。
BSCの利用
BSCは、予算の明確化、戦略的方向性の調整、業績の定期的評価など、さまざまな目的で利用されます。企業だけでなく、政府機関、軍、非営利団体、学校など、幅広い組織で導入されています。
BSCは、各組織の状況に合わせてカスタマイズされるべきであり、他の組織のBSCをそのまま流用することは推奨されていません。
BSCの課題と限界
BSCは、数値目標管理手法として有効である一方、限界も指摘されています。例えば、BSCによる業績給が必ずしも業績向上に繋がらないという研究結果もあります。
また、BSCの設計過程で「戦略的リンクモデル」や「戦略マップ」と混同されやすいという問題もあります。BSCは、あくまでも戦略実行のためのツールであり、戦略立案自体を目的とするものではありません。
BSC関連ツール
BSCのレポート作成を自動化するソフトウェアパッケージが多数存在します。オープンソースのソフトウェアや、汎用的なオフィスソフトを利用することも可能です。専用ソフトとしては、オラクル社、SAP社、
マイクロソフト社などの製品がありますが、高機能で高額なものが多く、中小企業向けには廉価版のソフトウェアも存在します。
まとめ
バランスト・スコアカードは、組織の戦略を具体化し、業績を多角的に評価するための有効なツールです。ただし、BSCは万能ではなく、組織の状況に合わせて適切に活用する必要があります。BSCの導入にあたっては、その目的や限界を理解し、組織全体での共有と継続的な改善が重要です。
脚注
1] Compiere: [http://www.compiere.com/
2] BSPG: [http://bspg.sourceforge.net/
[3] 戦略創造.light:(営業創造社)
[4] e-scorecard:(株式会社オオサワ・ビジネス・コンサルティング)
参考文献
Cobbold, I. and Lawrie, G. (2002年a). “The Development of the Balanced Scorecard as a Strategic Management Tool”. Performance Measurement Association 2002
Cobbold, I and Lawrie, G (
2002年b). “Classification of Balanced Scorecards based on their effectiveness as strategic control or management control tools”. Performance Measurement Association 2002.
Kaplan, R. S. and Norton, D. P. (1992年) "The balanced scorecard: measures that drive performance", Harvard Business Review Jan – Feb pp71-80.
Kaplan, R. S. and Norton, D. P. (
1993年) "Putting the Balanced Scorecard to Work", Harvard Business Review Sep – Oct pp2-16.
Kaplan, R. S. and Norton, D. P. (1996年) "Using the balanced scorecard as a strategic management system", Harvard Business Review Jan – Feb pp75-85.
Kaplan, R. S. and Norton, D. P. (
1996年) “Balanced Scorecard: Translating Strategy into Action” Harvard Business School Press
ロバート・S・キャプラン/デビット・P・ノートン著 吉川武男訳『バランススコアカード【新しい経営指標による企業変革】』生産性出版 1997年11月 ISBN 978-4-8201-1620-2
Kurtzman J (1997年) "Is your company off course? Now you can find out why", Fortune Feb 17 pp128- 30
Niven, Paul R. (2006年) "Balanced Scorecard. Step-by-step. Maximizing Performance and Maintaining Results".
松原恭志郎『バランス・スコアカード経営』日刊工業新聞社 2000年1月 ISBN 978-4-526-04500-4
ロバート・S・キャプラン/デビット・P・ノートン著 櫻井通晴訳『戦略バランスト・スコアカード』東洋経済 2001年9月 ISBN 978-4-492-55432-6
伊藤一彦/上宮克己『[新版]小さな会社にも活用できる!バランス・スコアカードの創り方』同友館 2007年5月 ISBN 978-4496043079
関連項目
デジタルダッシュボード
管理会計
経営戦略論
[重要業績評価指標]
総合設備効率
OKR
外部リンク
Balanced Scorecard, definition and methodology
Balanced Scorecard Online User Group
Case Study for Scorecards: "Inspiratum business case"
事例
BNSF鉄道 | バランス・スコアカードを駆使し、IT戦略とビジネス戦略の相乗効果をねらう - CIO Online
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