バリフ川

バリフ川：文明の揺りかご、その豊かなる流れ

バリフ川（またはバリク川）は、トルコ南東部のカラジャ山付近を源流とし、南へと流れ、シリア領内に入り、ラッカ市街地の東でユーフラテス川に合流するユーフラテス川の主要な支流の一つです。年間を通して水が枯れることがなく、バリフ河谷地域のステップ地帯にとってかけがえのない水源となっています。

文明の息吹が宿る肥沃な流域

バリフ川上流地域では、野生コムギが密集して自生しており、コムギ栽培がカラジャ山周辺地域で始まったことを示唆しています。実際、バリフ川流域は古代から文明や文化が豊かに育まれた地域であり、紀元前6千年紀に遡る住居跡が川の両岸に数多く点在しています。中でもテル・サビ・アブヤドは最古の遺跡として知られ、現在も発掘調査が進められています。

ラッカ周辺のバリフ川がユーフラテス川に合流する三角州地域には、紀元前3千年紀に遡る古代都市トゥットゥルの遺跡が発見されています。さらに上流のワジ・ハマドには、同じく紀元前3千年紀の上メソポタミアにおける重要な都市であったテル・チュエラの遺跡が存在します。この地域は数千年にわたり、ステップ地帯を遊牧する人々（遊牧民）と川沿いの農地で農業を営む人々（農耕民）との間で覇権をめぐる争いが繰り広げられてきました。

歴史の舞台：多様な民族と文化の交差点

紀元前2世紀から3世紀にかけては、エデッサ（現在のトルコ・ウルファ）を都とするアッシリア人の国オスロエネがこの地域に存在し、古代ローマの支配下でありながらもほぼ独立した状態を保っていました。7世紀にイスラム帝国の支配下に入ると、バリフ川流域はアラブ人の部族ムダル族にちなんでディヤル・ムダルと呼ばれるようになりました。

古代ローマ時代からイスラム時代にかけて、アル・ルファ（ウルファ、シャンルウルファ、古代のエデッサ）やハラン（ハッラーン、古代のカルラエ）などの都市が流域の主要都市として発展しました。ハランは、アブラハムがカナンの地に移住する前に居住していた場所であり、その子イサクや孫ヤコブの妻たちの故郷であると伝えられています。また、ムスリムの伝承によれば、アブラハム（イブラーヒーム）はアル・ルファ（エデッサ）で生まれたとされています。

762年、アッバース朝の第2代カリフであるマンスールは、バリフ川とユーフラテス川の合流地点に位置するアル・ラフィカに兵営を建設しました。その後、ラフィカは隣接するセレウコス朝時代からの都市カリニコス（現在のラッカ）と一体化し、双子都市として発展を遂げました。第5代カリフ・ハールーン・アッ＝ラシードがラッカに首都を遷都した際に、その繁栄は頂点を迎えました。

現代におけるバリフ川流域

ラッカはモンゴル帝国の侵攻によって破壊され、一時衰退しましたが、オスマン帝国の時代に再建されました。現在、ラッカはシリアのラッカ県の県都として、バリフ川下流地域の中心都市としての役割を担っています。一方、ウルファはトルコのシャンルウルファ県の県都として、バリフ川上流の穀倉地帯の中心都市として重要な位置を占めています。

このように、バリフ川は古代から現代に至るまで、様々な文明や文化の興亡を見守り、人々の生活を支え続けてきた、まさに「文明の揺りかご」と呼ぶにふさわしい、豊かなる流れなのです。

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