マンスール

アッバース朝のカリフ、アブー・ジャアファル・アル＝マンスール

アブー・ジャアファル・アブドゥッラー・イブン・ムハンマド・アル＝マンスールは、712年から714年頃に生まれ、775年に没したアッバース朝の第2代カリフです。即位後に「勝利者」「神の助けを受ける者」を意味する「アル＝マンスール」を称しました。彼はアッバース朝の実質的な創始者と見なされ、10世紀末までの黄金時代の基盤を築いた重要な人物です。

生涯

若年期

マンスールは、アッバース家の家長ムハンマド・イブン・アリー・イブン・アブドゥッラーフとベルベル人の奴隷サッラーマの間に生まれました。ウマイヤ朝の圧迫を避けるため、一族はヨルダン南部のフマイマ村に移住し、そこでマンスールは誕生しました。父や兄はウマイヤ朝の打倒を目指し、各地に宣教員を派遣しました。マンスールの前半生は不明な点が多いですが、744年に反乱に参加したと伝えられています。748年には、兄が投獄されたことを受け、親族と共にイラクのクーファに避難し、シーア派の支持を集めました。

カリフ即位

アッバース革命後、指導者選びが難航しましたが、749年にアブー・アル＝アッバースがカリフに選出されました。マンスールは、ウマイヤ朝の残党を鎮圧する戦いに参加し、ワーシトの包囲戦で活躍しました。しかし、アブー・ムスリムの台頭を警戒し、アッバース朝内で対立が深まっていきました。754年にアブー・アル＝アッバースが亡くなると、マンスールがカリフを継承しました。彼は、ベルベル人の奴隷を母に持つ出自から、アラブ純血主義を打破するきっかけとなりました。

内乱の鎮圧

マンスールの即位に対し、叔父のアブドゥッラーが反乱を起こしました。マンスールは、アブー・ムスリムの力を借りて反乱を鎮圧しますが、アブー・ムスリムを最大の脅威と見なすようになります。アブー・ムスリムは、マンスールによって暗殺され、ホラーサーンで大規模な反乱が発生しました。マンスールは、これらの反乱を鎮圧し、国内の安定を図りました。また、東ローマ帝国との国境地帯では、防衛のための要塞を建設し、侵攻を撃退しました。758年には、メッカ巡礼中にラーワンド派の信者による襲撃を受けましたが、ウマイヤ朝の将軍の助けで難を逃れました。その後も、マンスールは各地での反乱を鎮圧し、勢力を拡大しました。

シーア派への圧迫

マンスールは、シーア派の過激な一団を統治の障害とみなし、彼らを弾圧しました。762年には、メディナでシーア派の反乱が起き、マンスールはこれを鎮圧しました。この反乱では、マンスールは冷酷な一面を見せ、多くのシーア派の人々を処刑しました。この弾圧によって、アッバース朝の国内は安定しました。

晩年

マンスールは、息子のマフディーにカリフの地位を継がせようとしました。775年、メッカ巡礼中に病に倒れ、そのまま亡くなりました。彼の遺体は秘かにメッカに運ばれ、マフディーへのカリフ位継承が発表されました。マンスールの死後、多額の財産が遺され、アッバース朝の財政を支えました。

政策

マンスールは、神聖的・不可侵の絶対的君主制度を確立し、中央集権制度を強化しました。彼は、宗教的な権威を主張せず、イスラーム法に基づく政治を行いました。官僚制度を整備し、各地の裁判官を中央政府が任命するようにしました。また、駅伝制（バリード）を整備し、迅速な情報伝達を可能にしました。彼は、国内の情報を詳細に把握し、地方官の動向を監視しました。これらの政策によって、アッバース朝の支配体制はより堅固なものになりました。

バグダードの建設

マンスールは、ウマイヤ朝の首都ダマスカスに代わる新都の必要性を感じていました。彼は、チグリス川西岸のバグダードを新都に選びました。バグダードは、交通の要衝であり、周辺地域との交易に適した場所でした。マンスールは、10万人もの建築家や職人を動員し、莫大な費用をかけてバグダードを建設しました。バグダードは、後に世界的な大都市へと発展しました。

人物像

マンスールは、背が高く、浅黒い肌の持ち主で、精力的かつ冷徹な人物だったと伝えられています。直感と読みの深さを併せ持ち、大局的な視点を持っていましたが、信義に欠け、人命を軽視する一面もありました。しかし、彼の恐怖政治は、アッバース朝の支配体制を確立する上で重要な役割を果たしました。私生活では、寛容な一面を見せることもありましたが、公の場では厳格な態度を貫きました。また、彼は、質素な生活を送り、酒色や音楽を遠ざけ、貯蓄を好みました。マンスールは読書、文学を愛好し、ギリシャ、インドの文化にも敬意を払いました。しかし、シーア派への弾圧は、彼の治世における最も批判される点です。

家族

最初の妻ウンム・ムーサーとの間に、マフディーとジャアファルをもうけました。ウンム・ムーサーの死後も、多くの妻や女奴隷との間に子をもうけました。

まとめ

アブー・ジャアファル・アル＝マンスールは、アッバース朝の基礎を築いた重要なカリフです。内乱を鎮圧し、バグダードを建設するなど、多くの功績を残しました。彼の政策は、後のアッバース朝の発展に大きく貢献しました。しかし、その一方で、冷酷な一面も持ち合わせていました。彼の生涯は、アッバース朝の歴史を語る上で欠かせないものとなっています。

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