バリー・タックウェル

バリー・タックウェル（Barry Tuckwell、1931年3月5日 - 2020年1月16日）は、20世紀後半を代表するオーストラリア出身のホルン奏者であり、指揮者としても活動しました。その卓越した演奏技術と豊かな音楽性は、世界のホルン界に大きな足跡を残しています。

少年時代、タックウェルはまずピアノとヴァイオリンという異なる楽器から音楽の道を歩み始めました。しかし、やがてホルンという楽器に魅せられ、転向を決意します。シドニー音楽院に進学し、名教師アラン・マンの下でホルン奏者としての基礎を固めました。彼の天賦の才能は早くから開花しました。

キャリアをさらに発展させるため、1950年にイギリスへと渡ります。そこで、当時のイギリス楽壇における伝説的なホルン奏者、デニス・ブレインと出会います。ブレインの芸術家としての姿勢や演奏スタイルは、若きタックウェルに計り知れない影響を与え、その後の音楽人生に大きな指針となりました。イギリスでの活動は、まずハレ管弦楽団、次にスコティッシュ・ナショナル管弦楽団といった主要オーケストラでのホルン奏者としての経験から始まりました。これらの経験は、彼をオーケストラ奏者として鍛え上げる重要な期間でした。

彼のキャリアの頂点の一つは、1955年から1968年までの13年間にわたるロンドン交響楽団（LSO）の首席ホルン奏者としての活動でしょう。この期間、彼はLSOのサウンドの核として活躍し、そのソリスティックな演奏は多くの聴衆や共演者を魅了しました。LSO退団後は、活動の場をオーケストラからソリストへと本格的に移し、世界中でリサイタルや主要オーケストラとの共演を重ねました。ホルンを独奏楽器として確立させた功績は大きく、数多くの協奏曲や室内楽曲を演奏しました。また、指揮者としても活動を行い、音楽家としての多才さを示しました。

ソリストとしての彼の功績を語る上で欠かせないのが、豊富な録音活動です。EMIやデッカといった国際的な主要レーベルから、ホルンのための主要なレパートリーの多くを録音し、その演奏は今日でも多くの音楽愛史家にとって重要な参照となっています。モーツァルトやシュトラウスのホルン協奏曲は、彼の代表的な録音として高く評価されています。

キャリアの中盤である1960年代半ばには、プロの管楽器奏者にとって致命的ともなりかねない困難に直面します。金属アレルギーを発症し、通常使用される金属製のマウスピースでは唇が炎症を起こしてしまうようになったのです。しかし、彼はこの困難を乗り越えるため、プラスティック製の特注マウスピースを開発・使用することで演奏活動を継続しました。これは、彼の音楽への情熱と問題解決能力を示すエピソードです。

晩年はオーストラリアに戻り、後進の指導にもあたったとされています。2020年1月16日、故郷であるオーストラリアのメルボルンにて、心臓病に関連する合併症のため、惜しまれつつも88歳でその生涯を閉じました。バリー・タックウェルは、その演奏、教育、そして困難を乗り越えた姿勢により、ホルン界に不朽の遺産を残しました。

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