バルコニーのマハたち

『バルコニーのマハたち』

『バルコニーのマハたち』（原題: Majas al balcón）は、著名なスペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤによって1808年から1812年の間に制作された油彩画です。作品はマドリードのバルコニーに座る二人の美しい女性を描いており、彼女たちは豪華な服に身を包み、鑑賞者を見つめながら密かに囁き合っています。画家であるゴヤはこの時期、スペインで起こっている半島戦争の影響を受けつつも、宮廷画家として活躍していました。

作品の詳細

この絵画は、バルコニーに寄りかかる二人の若い女性がその中心となっています。一人は半透明の黒いヴェールをまとい、扇子を手にしています。控えめでありながらも魅力的な表情を浮かべた彼女たちは、微笑を交わしながら、周囲の様子を伺っています。背景には、黒いマントを羽織り、つばの広い帽子をかぶった二人の男性が立っており、彼らは何かしらの威圧感を持って、観客に視線を向けています。

ただし、作品の具体的な主題は不明瞭です。男性たちは客引きで、女性たちは売春婦の可能性が示唆されています。一方で、彼女たちの衣服は高級な生地で仕立てられており、上流階級の女性である可能性も考えられます。バルコニーから下を見下ろし、庶民の生活を観察する姿は、ある種の特権的な高みにいることを象徴しているかもしれません。

ゴヤの作品は、社会の多様な側面をライフスタイルの中に映し出すことによって、当時の風俗や文化を批判的に捉えています。特に『ロス・カプリーチョス』などでは、その風刺的なスタイルを用いてそのメッセージを伝えています。半島戦争の最中にもかかわらず、日常生活が続いている様子を強調することで、戦争によって変わらない一面を描き出しているのかもしれません。

構図と影響

作品の構図は非常に興味深く、公共と私的空間の境界が曖昧に描かれています。特に、バルコニーがこの二つの空間を分ける役割を果たしており、観る者にさまざまな解釈を促します。バルトロメ・エステバン・ムリーリョの『窓辺の二人の女性』も本作品の影響を与えたとされています。また、自然なフォルムや色使いは、当時の他の画家たちにも刺激を与え、印象派のエドゥアール・マネの『バルコニー』などの作品にも影響を及ぼしました。

来歴

この絵は半島戦争中に描かれた作品群に属し、幸運にも様々なコレクションに入ることができました。1812年、ゴヤの妻が亡くなった後、その遺産リストに「バルコニーにいる若い女性の絵画が二点」と記されたことから、本作が初めて文書に登場しました。1825年にはテロール男爵によってフランス国王に売却され、その後は複数の所有者を経て、現在はスイスの個人コレクションに保管されています。また、ニューヨークのメトロポリタン美術館にはほぼ同じ構図のヴァリアント作品も所蔵されています。

影響と後の作品

『バルコニーのマハたち』は、ゴヤの作品の中でも特に影響力が大きく、多くの画家によって引用され、再創造されています。スヘインの画家による『バルコニーのマハとセレスティーナ』や、エウヘニオ・ルカス・ベラスケス、さらにはルネ・マグリットのシュルレアリズム的な作品にまでその影響が及びます。美術の歴史の中で、この作品は重要な地位を占めており、文化や芸術に与えたインパクトは今なお語り継がれています。

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