バルザック V (航空機)

バルザック V（Balzac V）

バルザック Vは、フランスが開発した特異な垂直離着陸機で、主にミラージュIII Vの研究・試験のために設計されました。この機体の主要な目標は、垂直離着陸機としての性能を評価し、亜音速飛行を実現することです。

開発の背景

フランス政府は、実用的な垂直離着陸戦闘機の実現を目指していました。その取り組みの一環として、まずは実験機を製造し、垂直離着陸技術を研究することに決定しました。この計画の一環として、バルザック Vがアビオン・マルセル・ダッソー及びシュド・アビアシオンの手によって開発されたのです。

バルザック Vは、初めに「Mirage III 001 Balzac」という名称で呼ばれ、その後、現在使われている「バルザック V 001」へと改名されました。機体構造には、リフトエンジンとして8基のロールス・ロイス RB108エンジンを、推進用エンジンとして1基のブリストル・シドレー オーフュースを搭載する仕様が採用されました。リフトエンジンは、機体両側に2セットずつ配置され、上部にはエアインテークが4箇所設けられています。これらのエアインテークは、水平飛行時には自動で閉じられる構造になっています。

試験飛行の成果

バルザック Vは試験機であったため、軍用機としての武装は施されていませんが、テレメーターが装備されており、飛行データを地上に送信することが可能となっていました。1962年10月13日、バルザック Vは係留状態でのホバリングに成功し、その後も非係留状態でのホバリングや、より長時間のホバリングに取り組みました。さらに、1963年3月18日には垂直離陸から水平飛行への遷移も成功させ、29日には垂直着陸を伴う一連の飛行サイクルに成功しました。

性能と事故

様々な試験が行われ、フランス及びアメリカ空軍による性能評価が実施されましたが、その構造は思った以上に複雑であり、2度の致命的な事故を引き起こしました。最初の事故は1964年1月10日、125回目の低空ホバリング中に発生しました。降下中に翼が振動し、左翼が地面に接触したため、リフトエンジンが作動している状態で転倒しました。この事故は自動安定装置の限界を超えたために起こったもので、パイロットは脱出できずに命を失いました。

その後、修復された機体で試験は続行されましたが、1965年9月8日には再度低空ホバリング中に事故が発生しました。原因は不明ですが、油圧装置のトラブルが関与していると考えられています。パイロットは脱出装置が作動せず機体も損傷を受けましたが、損害は修復可能な状態でした。しかし、当時はすでにミラージュIII Vの試験が進行中であったため、バルザック Vの修復作業は実施されませんでした。

仕様

• - 全長: 13.1 m
• - 全幅: 7.32 m
• - 空虚重量: 5,360 kg
• - 最高速度: マッハ0.9
• - エンジン: ブリストル・シドレー オーフュース 1基
• - 出力: 21.6 kN
• - リフトエンジン: ロールス・ロイス RB.108 8基
• - 出力（リフトエンジン）: 9.8 kN × 8
• - 乗員: 1人

このように、バルザック Vはフランスの航空技術の発展に寄与した重要な試験機であり、そのデザインや技術は後の機体にも影響を与えることになりました。

もう一度検索