バルティスターン

バルティスターンは、インドとパキスタンが領有権を主張するカシミール地方の北部に位置する地域です。ウルドゥー語では「بلتستان (Baltistān)」、バルティ語では「بلتیول / བལ་ཏི་ཡུལ་། (Baltiyul)」と表記されます。この地域は、チベット民族の文化圏であるラダックの北西に隣接しており、その一端と見なされることもあります。

地理的には、カラコルム山脈に抱かれた険しい山岳地帯で、平均標高は3,350メートルに達します。かの有名なK2峰の真南に位置しており、その峻厳な地形は容易な立ち入りを拒みます。中国の新疆ウイグル自治区とも国境を接しており、その地理的な位置からも重要な地域であることが伺えます。しばしば混同されることのある、パキスタンのバルーチスターンとは全く異なる地域です。

歴史を紐解くと、バルティスターンはかつて独立したラダック王国の一部でしたが、1834年にシク王国に併合されました。その後、1841年には、チベットを支援する清がシク王国に侵攻し、清・シク戦争が勃発します。しかし、1846年に第一次シク戦争でシク王国がイギリスに敗北したことにより、イギリス植民地時代のジャンムー・カシミール藩王国が成立し、バルティスターンもその一部となりました。1947年のインド・パキスタン分離独立の際も、この地域はカシミールの一部として扱われました。

1999年5月には、カルギル紛争という形でインドとパキスタンの係争地帯の一部となり、現在に至るまでその状況は継続しています。東端のカルギル地域はインドが、スカルドゥを中心とする大部分はパキスタンが実効支配しています。この紛争は、地域住民の生活に大きな影響を与え続けています。

住民は主に、16世紀にチベット仏教からイスラーム教に改宗したチベット民族であるバルティ人です。彼らの文化は、宗教を除けばチベット西部と共通する面が多く、言語もチベット諸語に属するバルティ語を使用しています。バルティスターンは、その地理的な位置、歴史的な経緯、そして独自の文化を持つ地域であり、その複雑な背景を理解することが重要です。険しい山々に囲まれながらも、独自の文化を育んできたバルティスターンは、その歴史と文化遺産をこれからも守り続けていくことでしょう。

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