バルトロメオ・デ・セルマ

バルトロメオ・デ・セルマ・イ・サラベルデ（Bartolomeo de Selma y Salaverde）は、1595年頃に生まれ、1638年以後まで活動したスペインの音楽家です。彼は作曲家として、また特にファゴット奏者として知られています。初期バロック音楽の時代に、主に中央ヨーロッパの宮廷で活躍しました。

生涯の足跡

セルマ・イ・サラベルデはスペインのクエンカで生を受けました。音楽的な才能は幼い頃から開花し、宮廷音楽家であった父から音楽の基礎と技術を学びました。その後の人生で、彼は聖アウグスチノ修道会に入会するという選択をします。この修道会での経験が彼の音楽にどのような影響を与えたかは定かではありませんが、当時の多くの音楽家が教会や修道会と深いつながりを持っていたことを考えると、彼にとっても重要な時期であったと推測されます。

修道会に入った後、彼は中央ヨーロッパを広く旅する機会を得ました。この旅は、彼の音楽的視野を広げ、多様な地域の音楽様式に触れる貴重な経験となったことでしょう。そして、1628年から1630年にかけての期間、彼はチロル地方のインスブルックにあるオーストリア大公レオポルト5世の宮廷に仕えました。ここでは専属のファゴット奏者として、宮廷の音楽活動において重要な役割を担っていたと考えられます。

インスブルックでの勤務を終えた後も、セルマ・イ・サラベルデはオーストリアやポーランドといった中央ヨーロッパの各地の宮廷を転々としながら音楽家としての活動を続けました。当時の宮廷は、優れた音楽家にとって主要な活動の場であり、演奏だけでなく作曲や指導など、多岐にわたる業務が求められました。彼がどのような宮廷に具体的に仕えたか、それぞれの場所でどのような活動をしたかの詳細は限られていますが、複数の宮廷で職を得られたことは、彼の演奏技術と音楽家としての能力が高く評価されていたことを示唆しています。

主要な作品

セルマ・イ・サラベルデの現存する作品の中で最も重要なものの一つに、1638年にイタリアのヴェネツィアで出版された器楽作品集『カンツォーナ、ファンタジア、コッレンテ第1集』（Primo Libro de Canzoni, Fantasie, et Correnti）があります。ヴェネツィアは当時、音楽出版の中心地であり、そこで作品集を刊行したことは、彼の名声がイタリアにまで及んでいたことを物語っています。この作品集には、当時の主要な器楽曲形式であるカンツォーナ、ファンタジア、コッレンテが収められています。カンツォーナは声楽曲に由来する多声的な器楽曲、ファンタジアは自由な形式で作曲家の創意工夫が凝らされた作品、そしてコッレンテは舞曲に基づく作品です。これらの作品は、様々な楽器のために書かれており、特にファゴットやコルネットなどの管楽器の技術的な可能性を探求したものが含まれていると考えられています。彼の作品は、しばしばヴィルトゥオーゾ的な技巧を要求し、当時の器楽演奏の発展を示す貴重な資料となっています。

器楽作品の他に、セルマ・イ・サラベルデの手による声楽曲の手稿譜もいくらか残存しています。これらの声楽曲は、宗教音楽であるか世俗音楽であるかなど、その具体的な内容についてはさらなる研究が必要ですが、彼の作曲活動が器楽に限定されず、幅広い分野に及んでいた可能性を示しています。

意義

バルトロメオ・デ・セルマ・イ・サラベルデの生涯と業績は、17世紀前半におけるヨーロッパの音楽家の国際的な活動、特にスペイン出身の音楽家が中央ヨーロッパの宮廷で活躍した例として重要です。彼の器楽作品集は、当時の器楽様式、演奏習慣、そして楽器の可能性を理解する上で貴重な資料であり、初期バロック音楽史において無視できない存在です。特にファゴットという楽器のための作品を残したことは、この楽器の歴史においても特筆すべき貢献と言えるでしょう。彼の名は、現代においては必ずしも広く知られているわけではありませんが、残された作品を通して、当時の音楽文化の一端を今日に伝えています。

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