バロー＝イン＝ファーネス

バロー＝イン＝ファーネス：造船と歴史が織りなす港湾都市

バロー＝イン＝ファーネスは、イングランド北西部のカンブリア州に位置する港湾都市です。アイルランド海に突き出たファーネス半島の先端にあり、古くから航海に重要な役割を果たしてきました。その歴史は、中世のファーネス修道院にまで遡りますが、真の隆盛を遂げたのは19世紀の産業革命期からです。

産業革命と港湾都市の勃興

それまで小さな漁村だったバローは、水深の深い良港と、近郊に豊富にあった鉄鉱石やスレートという恵まれた地理的条件を背景に、急激な発展を遂げました。1846年のファーネス鉄道の開通は、内陸の資源を港へとスムーズに運ぶ輸送網を構築し、製鉄業の進出を促しました。

良質な鉄鋼生産を基盤に、造船業も発展。バローは、鉄鋼生産と造船という２つの産業を軸に発展していくことになります。1850年代には最初の船舶が建造され、1867年には近代的な造船所であるデヴォンシャー・ドックが開業しました。バロー・シップビルディング・カンパニーの設立、そしてヴィッカース社による買収と、発展は加速していきます。

ヴィッカースと造船業の黄金時代

ヴィッカース社は、バローの造船業を世界的な規模にまで発展させました。水深の深い良港と、対岸のウォルニー島という天然の防波堤によって、大型船舶の建造に最適な環境が整っていたのです。

ヴィッカースは、ウォルニー島に労働者向けの住宅地「ヴィッカース・タウン」を建設。近代的な都市計画に基づいた街づくりは、バローをイギリスで最も古い計画都市の一つとして位置づけています。同社は、客船、貨物船、そして軍艦といった様々な船舶を建造し、特にイギリス海軍の潜水艦建造においては、1901年の「ホランド1」号以降、第一次世界大戦までに建造された潜水艦の9割以上を建造するという偉業を達成しました。

戦争と復興

第二次世界大戦では、バローの造船所と製鉄所はドイツ空軍の空襲を受けました。市街地にも大きな被害が出ましたが、それでも造船所と製鉄所は機能を維持し続けました。戦後、製鉄業は海外との競争に敗れ衰退していきましたが、造船業は原子力潜水艦の建造を専門とすることで生き残りました。現在もBAEシステムズによって、潜水艦建造は続けられています。

日本とのつながり

バローと日本には、戦艦「三笠」という歴史的な繋がりがあります。「三笠」はバローで建造され、その記念としてウォルニー島にはMikasa Streetという通りが残されています。また、バローのタウンホールには、東郷平八郎元帥から贈られた記念品が飾られています。

文化と観光

バロー＝イン＝ファーネスの歴史と造船業について学ぶことができるドック博物館は、この街を訪れた際にぜひ訪れたい観光スポットです。また、子供たちに人気の絵本シリーズ『汽車のえほん』の舞台であるソドー島は、バロー＝イン＝ファーネスをモデルにしているという設定も興味深い点です。

まとめ

バロー＝イン＝ファーネスは、産業革命期に急成長を遂げた港湾都市です。鉄鋼と造船を基盤とした産業構造、そして近代的な都市計画は、その発展を支えました。戦争や産業構造の変化といった困難を乗り越え、現在も原子力潜水艦の建造という重要な役割を担っています。歴史、産業、そして文化が複雑に絡み合った、魅力的な都市と言えるでしょう。

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