バージニア・リー・バートン

ヴァージニア・リー・バートン（1909年8月30日 - 1968年10月15日）は、アメリカ合衆国の絵本作家、画家、そしてデザイナーとして多岐にわたる才能を発揮しました。彼女の生み出した数多くの絵本、中でも特に知られる『ちいさいおうち』などは、今日においてアメリカ絵本の古典として世代を超えて読み継がれています。結婚後も絵本作家としては旧姓を使用しましたが、デザイナーや画家としては夫の姓を用いた記録も見られます。

マサチューセッツ州ニュートンセンターで生まれたバートンは、学識ある家庭に育ちました。父アルフレッドはマサチューセッツ工科大学の学部長を務め、母リーナはイギリス出身の詩人であり画家でした。母親の健康上の懸念から、一家はバートンが10代になる頃、温暖なカリフォルニア州カーメル・バイ・ザ・シーへと移り住みます。

しかし、1925年に両親が離婚すると、母親は家を出て、父親と姉、弟は東海岸に戻りました。バートンは一人カリフォルニアに残り、高校生活を続けます。高校在学中にサンフランシスコの美術学校の奨学金を得て、卒業後は美術と並行してバレエも学びました。やがて、ニューヨークで舞台ダンサーとして活動していた姉に刺激を受け、自身もダンサーを目指して東海岸に戻る決意をします。しかし、父親の怪我を機にその夢を断念し、ボストンで新聞のための人物スケッチを描きながら親の世話をすることになりました。さらに芸術の研鑽を深めるため、1930年にはボストン美術館の素描クラスに登録し、彫刻家のジョージ・デメトリアスに師事します。

師であったジョージ・デメトリアスと1931年に結婚し、翌年には長男が誕生します。その後、一家はマサチューセッツ州グロスター郊外のフォリーコーブに移り住みました。バートンは、野菜や果物の栽培、羊の飼育など、自然と深く関わる生活を送りました。こうした暮らしの中から得られるインスピレーションが、絵本創作の重要な源泉となっていきます。

絵本作家としての活動は1935年頃に始まりますが、最初の作品『ジョニファー・リント』は13もの出版社から断られるという苦難を経験しました。しかし、機関車好きだった5歳の長男アリスティデスのために描いた『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』が1937年に刊行され、作家としての第一歩を踏み出します。続く1939年には、次男マイケルに捧げられた『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』を発表し、こちらも高い評価を得ました。

そして、1942年に発表された『ちいさいおうち』は、翌年のコルデコット賞という栄誉に輝き、彼女の代表作となりました。この作品には、夫ジョージへの献辞が記されています。また、1947年に刊行された『ロビンフッドの歌』（アン・マルコムソン編、バートン挿絵）は、1948年にコルデコット・オナー賞（次点）に選ばれています。

バートンの最後の絵本となった『せいめいのれきし』は、完成までに実に8年という歳月を要しました。地球誕生から現代に至るまでの生命の歴史を、生物学、地学、人類史といった広範な視点から捉え、絵によって分かりやすく描かれた壮大な作品です。この作品には、作者であるバートン自身も登場するというユニークな趣向が凝らされています。

彼女の作品には、自然や古き良き機械に対する温かい眼差しが貫かれています。同時に、急速な文明化が進む社会が自然にもたらす影響について、深い洞察と懐疑的な視点を投げかけています。素朴さや自然との調和を重んじる精神は、絵本だけでなく、後述するデザイナーとしての活動にも強く反映されています。

バートンはまた、デザイナーとしても才能を発揮しました。1938年頃、長男のバイオリン教師を探していたバートンは、近隣に住むアイノ・クラークに声をかけます。アイノはレッスンを引き受ける交換条件としてデザイン指導を提案し、これがきっかけでバートンのスタジオで週に一度のデザイン教室が始まりました。集まったのは地元の主婦たちでした。バートンは彼女たちに、身近な風景や動植物、日用品などをデザイン化する技術を教えました。完成したデザインはリノリウム版に彫られ、布地に印刷されてオリジナルのテキスタイルが生み出されました。

この活動は徐々に評判を呼び、1940年の展覧会は地元紙で好意的に紹介されます。そして1941年、「フォリーコーブ・デザイナーズ」が正式に立ち上げられ、本格的な商業活動へと発展しました。アーツ・アンド・クラフツ運動のリバイバルの流れも追い風となり、彼らの展覧会には多くのバイヤーが集まりました。1945年には、ニューヨーク五番街の有名デパート、ロード・アンド・テイラーのショーウィンドウ全体に作品が展示されるという快挙を成し遂げ、『ワシントン・ポスト』紙や雑誌『ライフ』といった主要メディアでも大きく紹介されました。

フォリーコーブ・デザイナーズの製品は、最盛期にはアメリカ全土の30店舗以上の小売店で販売されるほどの成功を収めました。デザインを手がけたメンバーは最終的に43人を数えましたが、バートンの死去から一年後の1969年、デザインの品質維持が困難になったことを理由にその活動を終えました。彼らの見本帳や製品などは、ケープアン歴史協会に寄贈され、今日に伝えられています。バートン自身は、フォリーコーブ・デザイナーズでの活動においては、夫の姓であるデメトリアスを使用していました。

バートンは日本とも縁がありました。1964年3月には日米文化協会の招きで来日し、東京で講演を行ったほか、翻訳家の石井桃子と『せいめいのれきし』日本語版の打ち合わせを行いました。また、松岡享子と共に日本の各地を旅するなど、約2週間にわたる滞在を通して日本の文化に触れました。

長男のアリスティデス・デメトリアス（1932年生）は彫刻家として、次男のマイケル・デメトリアス（1936年生）は実業家として、それぞれ自身の道を歩みました。

多才な芸術家であったバージニア・リー・バートンは、1968年10月15日、マサチューセッツ州ボストンで肺癌のため59歳でその生涯を閉じました。彼女が絵本やデザインに残した温かくも示唆に富む世界は、今なお多くの人々に愛され続けています。

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